報道実務家フォーラム2020 Online 【第2部】講座詳細・講師紹介
10月30日(金)19:30ー
遺骨は日本人ではなかった!国の「不都合な真実」をどう暴いたのか
「厚生労働省のタブーを知っているか?千鳥ヶ淵には『日本人ではない遺骨』が眠っている。これは厚労省が抱える“パンドラ箱”だ」NHKの報道で明らかになったシベリア抑留者の遺骨取り違え。取材は、関係者のこのひと言から始まりました。2年以上にわたる取材で次々に明らかになったのは、国にとっての不都合な事実でした――。遺骨収集事業に対する疑惑は、実は9年前にフィリピンのケースで浮上していました。ところが厚労省は玉虫色の説明を繰り返し、あまつさえ一旦は中段していた事業を再開すると発表。そこで取材班はDNA鑑定の結果を記した非公開の「物証」を入手し、報道にこぎつけました。この講座では、取材を指揮し、自らも核となる情報を入手したデスクと、2010年から問題を追い続けてきたディレクターに、取材の経緯と手法を語ってもらいます。
木村真也
NHK社会部副部長
1975年生 98年NHK入局。釧路局を経て03年、社会部に異動。警視庁・警察庁・検察などを担当。12年、大阪府警キャップ。14年、司法キャップ。17年より社会部事件担当デスク。Nスペ「ヤクザマネー」「職業”詐欺”~増殖する若者犯罪グループ」「調査報告 原発マネー」「ゴーン・ショック~逮捕の舞台裏で何が~」など。
11月6日(金)19:30ー
ニュースを読まないユーザーへの伝え方~データからニーズを掴む~
「もっと読まれてもいいニュースなのに」。Webに記事を出すようになってから、記者として一度はこう思ったことがあると思います。今はスマホでニュースからエンタメ動画まで消費するのかがあたりまえ。ヒトの1日24時間をめぐり、多様なメディアが時間を奪い合う時代に突入しています。 そんななか、新聞もとったことない、テレビを持っていないユーザーに、ニュースを読んでもらうにはどうしたらよいか。ユーザーとの「接点」を増やすため、Yahoo!ニュースがどのようなデータを使ってユーザーニーズを探ろうとしているのか、コンテンツ作りに活かそうとしているのかをお話しいただきます。昨年のYahoo!ニュースの方々による講座で好評だった新聞社、テレビ局との協業事例を通じたニュースの「届け方」「伝え方」の気付きについても、合わせてお話しいただく予定です。
前田明彦
Yahoo!ニュース編集
新聞記者を経て、2012年にヤフー入社。Yahoo!ニュース トピックスの編集、「Yahoo!みんなの政治」の編集などを担当。現在は選挙特集のプロジェクトマネージャー、新聞社やテレビ局などコンテンツパートナーとの共同・連携企画を進めるプロジェクトのマネージャーなどを務める。
中原望
Yahoo!ニュース編集
11月13日(金)19:30ー
イージス・アショア ずさん調査はなぜ地方紙に暴かれたのか
弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地選定を巡る防衛省の調査報告書に事実と異なるデータが記載されている――。秋田魁新報が昨年6月5日に放ったスクープは全国に衝撃を与えました。この特報により、防衛省は調査の誤りを認めて大臣が謝罪し、配備候補地の再調査につながりました。 防衛省のずさんさにとどまらず、政府の意思決定の不透明さ、国と自治体の関係、米国の軍事戦略に追随する日本の姿など、さまざまな問題点をあぶり出したこの報道は、機密文書を暴いたわけではありません。報告書を丹念に読み込む中で浮かんだ地形断面図への疑問から、調査を重ねた結果でした。その背景には、地域を歩いて多くの人々の声を聞き、ルーマニアの米軍基地にまで足を延ばした1年余りにわたる多角的な取材・報道の蓄積がありました。 なぜ、このスクープは生まれたのか、どんな問題意識が根底にあったのか、取材班を率いた松川敦志編集委員が語ります。
松川敦志
秋田魁新報社会地域報道部長
1972年秋田県生まれ。1996年秋田魁新報入社。社会部などをへて2003年に朝日新聞へ転職。社会部(警視庁、国交省、遊軍)、那覇総局長をへて2016年に帰郷し、再び秋田魁に入社。野生動物と人間社会の関係性や、超高齢社会の諸相などをテーマに、地域に根ざした取材を続ける。イージス・アショア報道で2019年度新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議賞。
11月20日(金)19:30ー
レオパレス、リクルート、許永中…経済事件スクープ連発、その舞台裏
アパート建設大手「レオパレス21」の種々の不正を掘り起こして追及し、謝罪と第三者委員会設置に追い込んだ。イトマン事件と石橋産業事件の主役、許永中氏に27年ぶりにカメラの前で口を開かせた。東京地検特捜部の捜査もたどり着けなかったリクルート事件の真相を明らかにした。日産自動車のカルロス・ゴーン元会長のレバノンでの記者会見に日本のテレビ局からただ一人出席。この2年ほどの間にテレビ東京の阿部記者が挙げた成果だ。レオパレス21の報道などテレビ東京の経済報道ドキュメンタリー『ガイアの夜明け』のシリーズ「マネーの魔力」は2019年6月、ギャラクシー賞の報道活動部門で優秀賞を受賞した。その舞台裏を語ってもらう。
阿部 欣司
テレビ東京 報道局 ニュースセン夕- ディレクター
2008年入社。警視庁担当記者、「週刊ニュース新書」「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」などを経て、2019年7月より「WBS(ワールドビジネスサテライト)」ディレクター。「池上彰の選挙ライブ」などの報道特番も手掛ける。「レオパレス 21」をめぐる調査報道で、2018年度ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞を受賞。
11月25日(水)19:30ー
事例に基づき悩みに答えます! 「申し入れ」多発時代に報じるための法律アドバイス
「これ、書いても大丈夫なのかな」「クレームが来たら…」「社名はやめておいた方が無難?」−−報道現場の悩みが年々深刻になっています。発表ではなく独自取材による報道、注目を集め論議を呼び起こすテーマほど不安になりがち。独自の掘り起こし取材、市民に議論してもらう報道ほど大切なのに、そういうネタが出しづらくなるのでは本末転倒です。 欧米のメディアはそんなとき弁護士に相談するのが普通といいます。弁護士に言うと「やめとけ」といわれる…?いえいえ「どうやればパワフルな内容のまま出せるか」は、事例を知る専門家だから決断可能。「むしろ報道現場で判断しようとすると、分からない怖さから『念のため削っておく』になりかねない」という見方もあります。 現場から寄せられた具体的なケースに基づき、メディアに詳しい小町谷育子弁護士(報道実務家フォーラム監事)が答えながら議論していきます。 ★このセッション内で疑問に答える事例を募集しています!実際に困った事例、当事者や弁護士からの申し入れに迷った経験などで、小町谷さんに聞いてみたい事例をinfo@j-forum.orgにお寄せください。
小町谷育子
弁護士(1996年~現在)
早稲田大学法学部卒、Georgetown University Law Center LL.M.修了、Yale Law School 訪問研究員、University of Amsterdam, Institute for Information Law 訪問研究員、司法研修所民事弁護教官、日本弁護士連合会事務次長、BPO放送倫理検証委員会委員長代行歴任
12月4日(金)19:30ー
より良い被害者取材を模索する~京アニ、池袋暴走の現場と当事者への社会的支援
昨年は事件取材、報道の在り方に大きな論議のあった年でした。京都アニメーション放火殺害、大津の保育園児16人死傷事故、池袋の母子死亡乗用車暴走事故、川崎の小学生ら殺傷など、各地でメディアをめぐる議論や批判も起きています。問題点について反省し、被害者の支援に当たる方々の見方もよく踏まえ、改善に真摯に取り組まねばなりません。一方、各方面からのメディアに対する注文や、ネットでの報道非難の中には報道や情報の意義の全否定とも受け取れる極端なものもあるようにみえます。私たちはどのように「良い被害者報道」を実現し、社会的役割を果たしていけば良いのでしょうか。京アニ事件の現場を担当した京都新聞の吉永周平さん、池袋事故を取材したTBSの守田哲さんと、被害者支援の専門家である京都産業大の新(あたらし)恵美准教授にお話しいただきます。それぞれの経験と知見を持ち寄った議論から、多角的に学んでいきましょう。
吉永周平
京都新聞社報道部記者
1972年生。奈良県出身。1999年京都新聞社入社。支局勤務を経て本社報道部では10年近く事件・司法を担当し、王将社長射殺事件や近畿3府県青酸連続殺人事件などを取材した。現在は報道部の遊軍調査報道統括キャップ。昨年7月に発生した京都アニメーション第1スタジオ放火殺人事件で被害者取材などを担当する取材班のデスクキャップを務めた。
守田哲
TBS社会部記者
1982年山口県生まれ、TBSに入社後は報道カメラマンとして中国・北京支局に赴任(2011年-2016年)。幾度となく拘束されながら事件事故、人権活動家の取材を試みた。帰国後は社会部の警視庁担当(2017年-現在)として警備・公安・交通などを取材。記者を志したのは、シベリア帰りの祖父に聞かされた戦争体験談がきっかけ。池袋暴走事故では遺族や加害者への取材結果を弊社の「報道特集」で放送し「週刊文春」にも寄稿した。
新(あたらし)恵里
京都産業大学法学部准教授
被害者学の専門家で、海外の被害者支援の事例検証などをはじめとした調査研究に取り組むと共に、被害者支援策の拡充を訴えている。
12月11日(金)19:30ー
真山仁から記者たちに贈るエール
真山仁の小説には新聞記者があちこちに登場する。それら記者たちの姿は痛々しいほどにリアルだ。2015年の作品『雨に泣いてる』は被災地取材の現場を描く。「人の不幸を写真に撮るなんて、そんな権利が私たちにあるんでしょうか」を悩む若手記者に、主人公のベテラン事件記者は「ここで見聞きした全てを取材し出稿するのは、権利じゃない。義務だ」と言いきる。「記者の仕事は、被災者に同情することじゃない。どれほど相手が悲しみに暮れていても、何が起きたかを訊き出さなければこの惨状は伝えられない。安っぽいヒューマニズムなんぞ不要だ」
真山さんは元読売新聞記者で、2004年に『ハゲタカ』で作家デビューした。全交流電源を喪失した原子力発電所で、非常用発電機が動かず、消防車はあるけどその要員がおらず、ホースの長さが足りず、水も足りず、バルブも開かない--。2008年の作品『ベイジン』は福島で2011年に発生したできごとを悲しいほどにそのまま予言。2017年の作品『バラ色の未来』は、カジノを含む統合リゾートの設置をめぐり、中国企業が日本の政治家の側にカネを渡したとの疑惑を取り上げて、現実の先を行く。
現代を見る真山さんの視覚の確かさと取材の堅固さは現役の記者やディレクターにとって学ぶところが多い。昨年秋には「真山メディア『Eagle’s Angle, Bee’s Angle』」を立ち上げ、自身もジャーナリズムの実践に取り組む。その真山さんに取材・報道、ジャーナリズムを語ってもらう。
真山仁
小説家
1962年大阪府生まれ。同志社大学卒、新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズのほか、『マグマ』『黙示』『そして、星の輝く夜がくる』『売国』『当確師』『オペレーションZ』『トリガー』など、幅広い社会問題を現代に問う小説を発表している。最新刊は、再生細胞による新薬開発に斬り込む初の医療小説『神域』。
12月18日(金)19:30ー
訴訟記録を活用しよう 12月刊行のハンドブック著者が語ります
民事、刑事裁判の記録文書は法律上は原則公開です。諸外国では記者を含め市民が閲覧することで司法チェックをはじめ公益のため役立てられています。特に権力や大企業の問題点を探る調査報道では重要な役割を果たしています。ところが日本のジャーナリズム界ではあまり用いられていません。そこで、経験豊富なジャーナリストたちが、裁判の公開に実質を与える意味を込め、訴訟記録の活用法を分かりやすく解説した「記者のための裁判記録閲覧ハンドブック」を12月に刊行。本講座では、その著者グループが「より良い取材・報道のため、裁判の記録をどう生かすか」を説明します。
清永聡
NHK解説委員
奥山俊宏
朝日新聞編集委員
澤康臣
元共同通信編集委員、専修大教授