2023年 調査報道大賞・発表



調査報道大賞
2023

Investigative Journalism Award 2023

結果発表

「調査報道大賞」の第3回授賞作品を、次の7作品に決定しました。

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大賞

すべての作品から2作品

ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川 少年たちへの性加害の一連の報道(週刊文春)

(授賞理由)
 深刻な問題を発掘し、裁判を起こされたが勝訴し、事実関係が確認された価値は大きい。この報道はBBCの報道につながり世界的な議論を起こすことにもなった。もしこの報道がなければどうなっていただろうか。すぐに結果が出ずとも重要な役割を果たす調査報道の典型とも言える。一方で、他メディアの沈黙も映し出すこととなり、ジャーナリズムの在り方を考えることにもなった。

《「週刊文春」前編集長 加藤晃彦様より》

 1999年の第一報、ジャニー喜多川との裁判、BBC報道をきっかけとした19週のキャンペーン、カウアン・オカモトさんの会見が破った“メディアの沈黙”…。ジャニーズ事務所が謝罪するまで24年を要しました。先輩たちの地道な取材、バトンをつないだ記者たち、サポート頂いた喜田村洋一弁護士と法務部、目先の利益に転ばなかった経営陣も含め、文藝春秋という会社を誇りに思います。ただ、戦後最大の性加害はまだ終わっていません。

神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道(神戸新聞)

(授賞理由)
 公的記録の保存が日本において喫緊の課題であることを浮き彫りにした。歴史に残る社会的重大事件であっても文書が廃棄されてしまうのは、もはや日本の宿痾とも言える状態であることを印象づける報道といえる。地元における過去の大事件を風化させず、地道に取材と報道を続ける中で、記録廃棄の事実を知った際、これは重大な事実と判断。ニュースバリューを的確に見抜いていた。一連の報道の中では、遺族との関係を長く結んでいた地方メディアならではの役割を示していることにも注目したい。

《「失われた事件記録」取材班 霍見真一郎様より》

 神戸連続児童殺傷事件は、発生から26年たった今も全容が解明されたとは言えません。「少年A」の事件記録が全て失われたと知ったとき、一瞬何が起こったか理解できませんでした。8カ月にわたり、遺族の憤りや悲しみを思い、少年法の理念などもひもときながら記録保存の重要性を訴え続けました。最高裁を動かし、制度の見直しに至った調査報道は、地域に根ざす地方紙だからこそできた部分もあったのではないかと感じています。

優秀賞

全国紙・雑誌部門、地方紙・専門紙部門、デジタル部門、映像部門別に選考

全国紙・雑誌部門:JAグループの不正を巡る一連の報道(週刊ダイヤモンド/ダイヤモンド・オンライン)

(授賞理由)
 JA共済の過大なノルマ、「自爆」とよばれる不要な契約といった不正の存在を詳細に調べ、明らかにした結果、行政も動き業務改善に結びついた。全国組織の不正でありながら長年見過ごされてきた問題を暴いた価値は高く、また、訴訟に屈せず、正しい報道は勝てることを示した点でも勇気づける取り組みとなった。

《ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文様より》

 農協の調査報道は2015年、農家1万3000人にアンケートを送付したところから始まりました。コストと都道府県への情報公開請求の手間は膨大でしたが、以降、毎年1800人程の農家が回答してくれ、JA共済(保険)の自爆営業の実態を知るのに役立ちました。アンケートに基づく農協の特集を8年間続けられたのは、統計解析や告発動画の制作などで協力してくれた編集部の取材チームメンバーのおかげです。受賞を励みに農協の取材を続けようと思います。

地方紙・専門紙部門:全国郵便局長会による会社経費政治流用のスクープと関連報道(西日本新聞)

(授賞理由)
 まだこのようなことが行われているのかという衝撃と憤りを感じずにはいられない事実の発掘を行い、政治と郵政グループの歪んだ関係を継続的な報道で問題提起したことは、調査報道ジャーナリズムの力そのものといえる。

《西日本新聞社報道センター 宮崎拓朗様より》

 郵便局長で組織する団体が、自民党参院議員の集票活動のために、総額8億円にも上る日本郵便の会社経費を流用していました。証言と内部資料を積み重ねていくことで、組織ぐるみの不正を暴くことができました。取材を続ける中では、選挙活動に協力する人物しか郵便局長に採用されないという暗黙のルールがあることも明らかになりました。外部の目が入らなければ、組織はここまで腐敗するのかと思い知らされます。地方発の地道な報道に光を当てて頂き感謝致します。

デジタル部門:「長年にわたる統一教会問題の取材活動」(鈴木エイト氏)

(授賞理由)
 問題解決が進まない理由と指摘される統一教会と政治との関係を粘り強く追及した価値がある仕事といえる。デジタルメディアをも舞台にしながら展開し、長期にわたる仕事が年月を経て社会的に注目されるに至った点でも調査報道の意義を再認識させるものとなった。

《鈴木エイト様より》

 統一教会と政界中枢の癒着を掴んでからちょうど10年になります。自分がおかしいと思ったことを追及してきました。現地へ足を運び証拠を押さえ、データを蓄積する。ファクトの積み重ねを心がけてきました。すべてはこの問題を世に問うための取り組みでした。情報を独占せず、照会があったメディアへは惜しみなく提供してきました。自分の問題意識と取り組みが社会に周知され、このような評価を受けたことをありがたく思っています。

映像部門:「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」(NHK)

(授賞理由)
 精神科病院という一種の「密室」に隠れた問題を掘り起こし、重要な問題提起となった。資料の入手もあり、事実関係を堅く押さえただけでなく、行政や社会の在り方など問題の根本にも注目し圧倒的な報道。とくに、映像や音声という内部状況を直接示すものが報道され、市民に提示されたことは、精神科病院をめぐる報道の中でも格段の意義がある。行政や捜査の動きもあり社会を変える報道となったといえる。

《NHK ETV特集 持丸彰子様・青山浩平様より》

 一度内実を知ってしまったら見て見ぬふりはできない。それが精神科の取材です。なぜこのようなことが起き、放置され、社会で見て見ぬふりがなされているのか。番組は複数の内部告発者と弁護士の尽力で見えてきた実態です。弱い立場にある人たちの命と尊厳が踏みにじられているこの国の実情を、少しでも多くの方に知っていただくことで、社会がより良い方向に変わっていくことを切に願っています。

データジャーナリズム賞:「みえない交差点」(朝日新聞)

(授賞理由)
 警察も把握していなかった事故多発交差点をデータ分析し、改善と安全確保に繋げる結果も出した。データビジュアライゼーションを使った表現方法も工夫があり、データを中心に据えながらも無味乾燥な数字の報道ではなく、身近な生活の問題として肌身に感じさせた。

《朝日新聞社デジタル企画報道部 山崎啓介様より》

 交通事故の発生場所を示す位置情報をうまく使えば、危険な交差点がくまなく発見できるのではないか。そんな狙いからデータの分析や取材が始まり、最終的には、事故が多いにも関わらず警察が気がついていない「みえない交差点」を数多くみつけることができました。報道の根本にあったのは警察庁が公開している人身事故に関するオープンデータです。この受賞をきっかけに、国や自治体が持つデータの公開がより一層進んでくれることを願っています。

選考について

授賞作は、期間中に応募・他薦された90件の作品の中から、報道実務家フォーラムに2017年以後参加した報道実務家による投票と、選考委員会による厳正な審査を経て選ばれました。

【選考委員】

  • 江川紹子
     

    ジャーナリスト
    江川紹子

  • 塩田武士© 森清

    作家
    塩田武士

  • 長野智子
     

    ジャーナリスト
    長野智子

  • 西田亮介
     

    東京工業大准教授
    西田亮介

  • 三木由希子
     

    情報公開クリアリングハウス理事長
    報道実務家フォーラム理事
    三木由希子

選考委員からのコメント

江川紹子(えがわ・しょうこ)・選考委員長コメント

 今年は、審査員全員一致で、極めて重要な2作品に大賞を贈ることになりました。

 週刊文春の「ジャニーズ性加害」報道は、事柄の深刻さのみならず、長くそれを見過ごしてきた日本のメディアや芸能界、さらには社会の問題も浮き彫りにしました。少年事件記録の廃棄を伝えた神戸新聞の報道は、最高裁に変革を迫っただけでなく、司法公文書の保存という民主主義国家のありように関わる問題を提起しました。

 部門賞を含め、受賞作はいずれも、社会をよりよく変えていくために、調査報道がどれほど必要であり大切であるかを、改めて教えてくれました。そして、各地で今も地道な取材に取り組むジャーナリストたちを、力強く鼓舞してくれたと思います。

 調査報道が社会を動かす。その仕事を、審査員一同、心から応援します。

澤康臣(さわ・やすおみ)・調査報道大賞実行委員長コメント

 記者がいて、報道があって、初めて明らかになった問題がこんなにもある——受賞作、さらに全ての候補作を並べてみるとき、調査報道の奮闘を重く感じます。どの報道にも正義感と地道な思いが詰まり、日本のジャーナリズムが踏ん張って深刻な社会問題を一つ一つ明らかにしていることを肌で感じます。大きな声援を送るとともに、社会にもこの価値を伝えたい。そのための調査報道大賞を今年も贈ることができ、光栄に思います。

授賞式の開催について

9月29日(金)16時~17時30分
場所 スマートニュース本社(東京:渋谷)

※授賞式の様子はオンライン配信を行います。

調査報道大賞は、すぐれた調査報道を顕彰し、その社会的意義を広めるとともに、現場で取り組む取材者を励ますために設立されました。

  • 主催:特定非営利活動法人報道実務家フォーラム、スローニュース株式会社
  • 詳細:調査報道大賞ウェブサイト https://www.j-forum.org/award2023/
  • 対象:ジャーナリストの調査で分かったことを報道する調査報道であって、次のいずれかにあてはまるもの。
    • 2020年4月1日以後に発表された
    • 2020年4月1日以後に成果が顕著になった(10年前の報道の意義が、2020年4月以後の行政や司法の動きであらためて明らかになったなど。例として、1988年に毎日新聞が報じた薬害エイズ問題が、1996年以後の当局の動きで注目され、再評価されたというようなケース)