2024年 調査報道大賞・発表



調査報道大賞
2024

Investigative Journalism Award 2024

結果発表

「調査報道大賞」の第4回授賞作品を、次の6作品に決定しました。

キーボード

大賞

すべての作品から1作品

NHKスペシャル「“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部で何が〜」大川原化工機(NHK)

(授賞理由)
 NHKスペシャルの取材力を見せつけた完成度の極めて高い調査報道。大川原化工機事件の“冤罪”を生んだ警視庁公安部の捜査を徹底検証した。内部文書も入手・内部文書の送付者までを特定し、当事者取材も十分におこなっている。多くの人が知らなかった重大な事実を知らしめた力のある作品だった。

《NHK 担当ディレクター 石原大史様より》

 この度は栄えある賞を頂き誠にありがとうございます。
 当番組は、冤罪に屈せず真相解明を訴える大川原化工機の皆様、そして組織の軋轢の中でも真実を諦めなかった告発者の皆様、両者の勇気によるものです。見えてきたのは、組織内評価に飢え強引な捜査を主導した警視庁公安部幹部らの姿。そして、それらが経済安全保障という大義名分の下、歯止めが働かず正当化されていった姿でした。受賞を機に事件に更に多くの関心が集まることを期待します。

優秀賞

全国紙・雑誌部門、地方紙・専門紙部門、デジタル部門、映像部門別に選考

海外での移植手術で臓器売買か、都内NPOが仲介…術後に日本人患者が重篤に(読売新聞東京本社)

(授賞理由)
 この報道がなかったらこれからも危険な目にあう人がいたはず──音声や証言など多重的な取材を重ね、日本人患者の海外での生体腎移植手術で臓器売買があった疑いを報じ、問題を解決に導いていく調査報道。

社会福祉法人、結婚希望の知的障害者に不妊処置求める(共同通信)

(授賞理由)
 北海道の社会福祉法人が20年以上前から結婚希望の知的障害者に不妊処置を求めたことを明らかにした。それを許す社会や人々の偏見と向き合う一方、障害のある実際の家族のありようを示して、希望も映し出した。

「河井事件」を巡る安倍政権幹部の裏金提供疑惑スクープ (中国新聞、中国新聞デジタル)

(授賞理由)
 2019年の河井克行元法相による大規模買収事件について、政権中枢から多額の裏金提供の疑いを示す重大な物的証拠となる手書きメモを世に出し、「政治とカネ」という問題に火がつく大きなきっかけとなった。買収の原資を粘り強く追い続け、検察が政権に対して忖度している実態、甘利明氏が公認候補に陣中見舞いとして100万円を配り回った疑惑も報じた。政治と社会を大きく動かした意義ある調査報道だといえる。

奨励賞

全国紙・雑誌部門、地方紙・専門紙部門、デジタル部門、映像部門別に選考

虚飾のユニコーン ──線虫がん検査の闇(NewsPicks)

(授賞理由)
 日本のユニコーン企業が推し進める「線虫を使ったがん検査」を巡る疑惑について検証した報道。企業関係者、医療関係者、内部文書など多角的に取材、疑念・懸念を明らかにした。これからの本格的な調査報道にも期待したい。

揺さぶられっ子症候群を検証した一連の報道(関西テレビ)

(授賞理由)
 乳幼児の脳の受傷を虐待による揺さぶられっ子症候群と直結されるマニュアルの妥当性に疑問を呈した。当事者家族やマニュアル作成を主導した小児科医に徹底取材し、虐待冤罪被害の全貌を緊迫感のある映像で明らかにした。

選考について

授賞作は、期間中に応募・他薦された91件の作品の中から、報道実務家フォーラムに2017年以後参加した報道実務家による投票と、選考委員会による厳正な審査を経て選ばれました。

【選考委員】

  • 有働由美子
     

    フリーアナウンサー有働由美子

  • 江川紹子
     

    ジャーナリスト江川紹子=委員長

  • 塩田武士© 森清

    作家塩田武士

  • 西田亮介
     

    日本大学危機管理学部教授
    東京工業大学特任教授
    西田亮介

  • 三木由希子
     

    情報公開クリアリングハウス理事長
    報道実務家フォーラム理事
    三木由希子

選考委員からのコメント

江川紹子(えがわ・しょうこ)・選考委員長コメント

 今年も、多くの力作が集まり、その中から審査員が議論を重ねて大賞を含め6作品を選出しました。

 これらの調査報道がなければ、私たちは大事な事実を知ることができずにいたでしょう。特に大賞のNHKスペシャルは、閉鎖的な公安警察が引き起こした冤罪事件の闇に、勇気と熱意と根気をもって光を当てた、素晴らしい作品です。優秀賞・奨励賞の5作品も、命や健康、人権、政治に関する重要な問題を、地道な取材で伝える秀作でした。

 虚偽情報が飛び交い、様々な混乱や人権侵害がもたらされ、民主主義が危機に瀕している今、事実を掘り起こし、集め、吟味するという丁寧なプロセスを経た正確な情報が提供される意義と必要性は、切実なほどに高まっています。

 手間と経費と時間をかけ、今もその仕事に取り組んでいるメディアやジャーナリストに、心からの応援と期待を表します。

澤康臣(さわ・やすおみ)・調査報道大賞実行委員長コメント

 有力者の不正やビジネス界のごまかしをはじめ、隠れた社会問題を記者の力で明らかにする調査報道は、私たちの世の中に欠かせない営みです。こうした問題は決して自動的には明らかになりません。取材・報道があって初めて知ることができます。調査報道の取材はとにかく地味で、多くはまるで歓迎されません。大賞のNHKスペシャルの中で、記者が冤罪捜査の責任を負うべき捜査員に食い下がり、「しつこい」などと不機嫌にはねつけられる場面はそのよくある一例です。そんな苦闘の成果が実っても、その記事や番組が「これは調査報道」と目立たせてもらえるわけでもありません。でもやる、社会のみんなのため——そんな報道人のひたむきさが感じられる報道が、今年の授賞作にも並びました。こうした報道に市民からさまざまなエールが送られる社会になってほしいと心から願っています。

授賞式の開催について

10月25日(金)16時~17時30分
場所 スマートニュース本社(東京:渋谷)

※授賞式の様子はオンライン配信を行います。

調査報道大賞は、すぐれた調査報道を顕彰し、その社会的意義を広めるとともに、現場で取り組む取材者を励ますために設立されました。

  • 主催:特定非営利活動法人報道実務家フォーラム、スローニュース株式会社
  • 詳細:調査報道大賞ウェブサイト https://www.j-forum.org/award2024/
  • 対象:ジャーナリストの調査で分かったことを報道する調査報道であって、次のいずれかにあてはまるもの。
    • 2021年4月1日以後に発表された
    • 2021年4月1日以後に成果が顕著になった(10年前の報道の意義が、2020年4月以後の行政や司法の動きであらためて明らかになったなど。例として、1988年に毎日新聞が報じた薬害エイズ問題が、1996年以後の当局の動きで注目され、再評価されたというようなケース)