訴訟など法的な危険を避けるには
文:メディア・ディフェンス(Media Defense)
翻訳:エァクレーレン
この記事はthe Global Investigative Journalism Network (GIJN)によって公開されました。日本語訳はGIJNのご支援のもと報道実務家フォーラムが公開したものです。貴重な情報を提供してくださり心より感謝申し上げます。
This story was originally published by the Global Investigative Journalism Network.
J-Forum publish the Japanese translation with GIJN’s support.
We’re grateful to GIJN for offering and allowing to translate it into Japanese.
注意:この文書に含まれる情報は法律的助言ではなく、そのようなものとして解釈すべきではない。本文書に含まれる情報は、あくまでも参考のために提供されている。
この12カ月間で、メディアの自由がどれほど脅威に晒されているかという点に真剣な関心が集まるようになった。昨年はパンデミックによりこうした脅威が加速し、悪質な政権が、デマ対策を装って抑圧的な法的手段を導入し、オンライン情報の規制に向けて、ますます高度な手法を用いるようになり、批判的ジャーナリズムに対する弾圧を続けている。
ジャーナリストは引き続き暴力や恣意的な拘束の対象になるだけでなく、密かな監視の対象にもなっており、紛争下や選挙期間中は特に顕著である。こうした攻撃についてはまったく説明責任が果たされないことが多く、治安部隊のメンバーや国家以外の当事者が、ジャーナリストに対する暴力を行使しながら処罰を免れている。
またジャーナリストに対する根拠のない訴訟も、過去に類例のない水準にまで増加している。スラップ訴訟(市民参加に対する戦略的訴訟)と呼ばれるこの種の訴訟は、ジャーナリストその他、権力者や大企業の行動に対して批判的な意見を表明する者を恫喝することを意図している。こうした訴訟は多くの場合、法的実体を欠いた、根拠のない、あるいは誇張された主張に基づいており、権利を守るためというよりは、ジャーナリストや人権擁護活動家に圧力をかけるために行われる。
言論の自由、そして独立したジャーナリズムに対するさらなる挑戦として、オンライン情報を統制しようという国家の策動がある。多くの国家では従来のメディアを取り巻く環境が特に厳しく抑圧的であることを考えれば、自由で独立性のある言論にとって最後に残されたプラットフォームがインターネットであることも珍しくない。だが、国家はオンライン言論に対するさまざまな方法での抑圧を強めている。多くの国と地域では、ウェブサイトに対する定期的な遮断、あるいは継続的なフィルタリングを通じて、インターネットが厳しく規制されている。
独立したジャーナリズムの仕事は、非常に大きな課題に直面している。それには言論を萎縮させる抑圧的な法律を施行する独裁体制から、ジャーナリストとしての生計の困難まである。こうした課題に対応するうえで、国際法によって与えられる保護を理解しておくことはジャーナリストにとって有益であろう。
以下のガイドラインでは、国際的な法的基準の概要と、ジャーナリストが直面する最もよくある脅威を紹介している。ジャーナリストとしての日々の活動を理由とする法律面での脅威を予防・緩和し、我が身を守る方法についてヒントが得られるだろう。
名誉毀損
「名誉毀損」とは一般的な法律用語であり、概ね、法人または自然人の評判を不当に傷つけ貶めるような虚偽の言説を伝えることと理解されている。国際人権法のもとでは、名誉毀損は、ある者の「名誉及び評価」に対する「違法な攻撃」に対する保護であると理解されている。
名誉毀損に関する法律は国や地域ごとに異なっている。このため、名誉毀損訴訟に備えるための最初のステップは、該当する国や地域を確認し、現地における法律的助言を求めることになる。
名誉毀損のリスクを回避/最小化するためのヒント
ジャーナリストとして法的なリスクをゼロにすることは不可能だが、以下のチェックリストに示す実践的なヒントは、名誉毀損の責任を負うと判定される可能性を最小限にする上で役に立つはずだ。
- 優れたジャーナリズムの原則に従う。発表する内容は徹底的に吟味し、公正・正確を旨とする。出典・引用を注意深く示し、(相手の同意を得た上で)可能な限り会話を録音・録画する。あなたの意図とは違う、あるいは裏付けとなる証拠のない意味合いを生むような形で見解を叙述しない。さらに、インタビュー対象者の発言について恣意的な選別や要約、言い換えをせず、発言は引用符で括る。Recording Phone Calls and Conversations(電話・会話の録音)及びJournalism Skills and Principles(ジャーナリズムのスキルと原則)にも有益な提言があるので参照されたい。
- 自分が何を述べているかを自覚し、証明できることだけを述べる。述べている内容が正確になるようコントロールし、曖昧さを避ける。
- 取材の記録その他の文書を保存する。企業や個人についてスキャンダルになりうる発信をしようとするのであれば、自分の発言が真実であり、事実に立脚していることを証明できなければならない。したがって、できる限り証拠を収集すべきだ。
- 記録の保存が、音声または映像によるレコーディングを伴う場合、取材相手の同意を文書で得ておくことが大切である。
- 常に事実をチェックし、信頼できる情報源を使う。どんな場所でも書かれていることはそのまま事実であると仮定してはならない。
- 名誉毀損に当たる表現を再伝達しただけでも責任を問われる可能性があることを覚えておこう。従って、何らかの主張を伝える際には慎重さが求められる。名誉毀損に当たるツイートを何気なくリツイートするだけでも訴えられるリスクはある。
- 何かについて意見を表明する場合は、それが自分の主観的な評価であること、そして誠意を持ってそれを示していることを明らかにする。
- 自分が書いているものが他者の名誉を傷つけると分かっている場合、自分にそれを報道する権利があることを確認しておく。それが名誉を傷つけるか否かにかかわらず、報道する権利のある内容は存在する。だが、誹謗中傷・名誉毀損に関する法律は国によって異なっており、イギリスの法制はメディアの名誉毀損を訴える訴訟に特に同情的であることは忘れないようにしよう。
- 名誉毀損訴訟には時間もお金もかかる。最終的に勝訴するとしても、非常に多額の弁護費用がかかる可能性がある。損害賠償保険の保険内容をチェックし、自分の未来を守るために、職業賠償責任保険・損害賠償保険への加入を検討しよう。フリーランサーの場合はなおさらである。
情報提供者の保護
調査報道ジャーナリズムの活動の多くは、秘密の情報提供者や内部告発者の存在抜きには不可能である。こうした情報提供者は、公益のための情報提供に対する身体的・経済的、あるいは職業上の報復から身を守るために、匿名性を必要としている場合がある。ジャーナリストが秘密の情報提供者の個人情報を開示しないという倫理的義務は、国際的に確立されている。また国際的に、取材源の秘匿という法律上の伝統とも強力であり、ジャーナリズムの「監視」「説明責任」機能を円滑にする上で秘密の情報提供者が果たす不可欠な役割が認められている。情報源の開示を強要すれば、情報の自由な流れを阻害するだけでなく、言論の自由、メディアの自由に対する萎縮効果が生じる。
秘密の情報提供者が開示されるリスクを回避/最小化する方法
独立系ジャーナリストにとって、デジタル面でのセキュリティは基本的な関心事である。Perugia Principles for Journalists Working with Whistleblowers in the Digital Age(デジタル時代に内部告発者と協力するジャーナリストのためのペルージャ原則)は、デジタル監視が行われている環境において秘密の情報提供者とやり取りするためのベスト・プラクティスをまとめることを狙ったものであり、情報提供者の保護の秘匿という点で有益なものとして、以下の原則を紹介している。
情報提供者を保護する。要望がある場合には匿名性を維持する。
- 情報提供者が「初めての接触」を行うための安全な方法を提供する。
- 匿名・暗号化された経路を用いた複数の連絡方法、またそれぞれの方法に伴うリスクを公表することで潜在的な内部告発者を支援する。
- 内部告発に伴う内部告発者の代償を認識し、情報提供者や内部告発者にはデジタル的に情報が流出する潜在的リスクを説明する。
- デジタルデータの保護に責任を持ち、暗号化を用いる。
- 自分自身と情報提供者にとって何が最大の脅威なのか、そして双方を守るために具体的にどのような手を打つ必要があるかを判断する。
- 記事におけるデータセットの重要性に鑑み、安全の点で懸念がない限り、できるだけオリジナルの文書及びデータセットを完全に保存する。
- 要請があった場合には、秘密の情報提供者を保護するため、情報提供者から提供されたデータを確実に消去する。ただし、倫理的及び法的な、また雇用者としての義務に違反しないこと。
- 秘密の情報提供者・内部告発者のための「デジタル投書箱」においては、高いレベルのセキュリティを、またリスクの高い資料に関しては匿名性を確保する。
- 秘密の情報提供者及び内部告発者を保護する各国・地域及び国際的な法制度・規制枠組みを理解する。
さらに、デジタルメディア・ロー・プロジェクトは以下の提言を行っている。
- 秘密厳守を約束するときは慎重に:情報提供者に秘密厳守を約束することは、ジャーナリスト自身にも情報提供者にもメリットがあるが、そのメリット・デメリットを慎重に比較考量したうえで約束すべきである。
- 情報提供者と非公開情報を保護する「ジャーナリスト特権」を主張できるかどうか調べる:国と地域によっては、当該の情報の提出を求める召喚状または法的請求を受けた「ジャーナリスト」に対する保護を提供している。
- どこで成果を発表するか考慮する:調査・取材の成果をどこで発表するかによって、情報提供者及び取材情報をどれだけ保護できるかに影響が生じる場合がある。
サイバー犯罪及びハラスメントの被害
ジャーナリストが直面する課題の多くは、新たなテクノロジーの導入・活用手法、さらにはデジタル環境におけるデータ利用及び監視に関するものである。ジャーナリストは日常的にデジタル領域における脅威に直面している。たとえば、オンラインでのハラスメント、オンラインでの組織的な誹謗中傷キャンペーン、フィッシング攻撃、架空ドメイン攻撃、中間者(MitM)攻撃、分散型サービス妨害(DDoS)などである。国家機関に批判的なジャーナリストを沈黙させる、恫喝する、脅迫する、信用を落とすために、「トロール軍団」が利用されることが増えている。多くの法体制では、報道関係者に対する暴力的な加害者の訴追に時間がかかるか、制度が未整備である。司法制度の弱さもあるが、大企業や国家そのものに抵抗しようという政治的意志が欠けているせいでもある。こうした司法の独立の不足により、現地の裁判所を通じた説明責任[の追及]は非常に難しくなっている。
サイバー犯罪とは?
「サイバー犯罪」に関する厳密で普遍的な定義は存在しないが、国際機関でこの言葉が使われる場合、コンピューター・ネットワーク、要するにインターネットを利用して実行される犯罪を指すのが一般的である。この意味での「サイバー犯罪」には、インターネットの助けを借りて実行されるテロ活動やスパイ行為、コンピューターシステムへの違法ハッキング、コンテンツ関連の犯罪、詐欺及びデータ改ざん、ネットストーカー行為など、幅広い行為が含まれる可能性がある。
サイバー犯罪の種類
・データのプライバシー侵害
国境を越えた大量のデータフローを含め、データの活用は年を追って増大しており、個人データに関しては特にそれが顕著である。だが、重大な予期せぬ結果を招きかねない個人情報の収集・処理に関する規制は不十分であり、データ保護規制が急務となっている。欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)によれば、個人情報データの侵害は、「セキュリティ違反のうち、送信・保存その他の処理の対象となる個人情報データに関する、予想外の、または違法な破壊、喪失、改ざん、同意を得ない開示、閲覧につながるもの」である。
・オンライン言論の犯罪化
サイバー犯罪に関する法制は、通常、オンラインに投稿された多種多様な違法・有害コンテンツに対処しようとしている。たとえばテロ組織によるプロパガンダ、レイシズムに相当するもの、ヘイトスピーチ、性的にひどいもの(児童ポルノなど)、冒瀆的なもの、国家及びその機関に批判的なもの、知的財産権保有者の同意を得ないコンテンツなどだ。
・オンラインでの虐待、ネットストーカー行為、ネットいじめ
オンラインでのハラスメントには、ネットストーキングやDDoS攻撃から、ドキシング(悪意による他人の個人情報の暴露)やオンラインでのセクシャルハラスメントに至るまで、さまざまなタイプがある。ネットストーキングは、テキストメッセージや電話、あるいはソーシャルメディアを介した不当なハラスメントや恫喝であり、特に社会的弱者や周縁化された集団に属する人々がオンラインでの権利を享受するうえで深刻な制約となる。研究によれば、オンラインでのハラスメントは個人的特徴や身体的特徴を標的とすることが多く、特に、男性に比べてはるかに高い比率でオンラインでの性的なハラスメントを受ける性的少数者や女性など社会的弱者や周縁化された集団において顕著である。また、オンラインでのハラスメントにおけるもう一つの傾向として、多くはソーシャルメディアを通じて、憎悪に満ちた、恫喝的・脅迫的なメッセージを送りつける、いわゆる「ネットいじめ」がある。
サイバー犯罪のリスクを回避・最小化するヒント
「メディア・ディフェンス」は、女性ジャーナリストがオンラインで自分の身を守るための実践的な方法を紹介している。
- ソーシャルメディアでのハッシュタグは慎重に使用し、特定のテーマに対するトロールの組織的な攻撃を招くことを避ける。
- ソーシャルメディア上でリアルタイムの位置情報を共有しない。現場を離れ、取材を終えたら、所在地を明かしても安全である。
- 脅威が明確になったら、同僚や編集者、経営者にその情報を共有し、協力して安全確保に向けた手配を進める。
- 自分の経験から受ける精神的な負担を処理するための場を持つ。友人や同僚、あるいは支援を提供してくれる専門家に相談する。
- [ソーシャルメディアのサイト等で]脅迫や攻撃を受けた場合、特にそれが明らかにサービス利用規約や利用規則に違反している場合、サイト運営者に通報することを検討する。
- 所属する報道機関に、ハラスメントやその対処に関するスタッフ研修の手順を確立するよう促す。
- さらに詳しい情報は、IWMF及び「トロールバスターズ」の資料を参照のこと。
さらにメディア・ディフェンスでは、プライベートな画像を同意無しに流布された場合について、以下のような措置を提言している。
- オンラインに投稿されたコンテンツの記録(コピーも)を残し、犯罪が恒久的に記録されるようにする。コンテンツが投稿された日、投稿された場所、投稿者も記録すべきである。スクリーンショットを撮っておくのが手軽な方法だ。
- 心理・社会的ケアや法的支援を求めよう。
- 警察に記録を提出する。同意無しのプライベート画像の流布に関して特に規定のない国であっても、既存の刑法の枠内で立件できる場合はある。
- コンテンツが投稿されたプラットフォームの運営者に通報する。この通報には、警察への通報の写しを添えるとよいだろう。
スパイウェアとデジタル監視
ジャーナリストが、標的型のマルウェアやスパイウェア(「ペガサス」による最近の事例など)、顔認識ソフトウェア、その他ソーシャルメディア監視などのツールによる偵察・監視の対象となる状況が増えつつある。偵察・監視はジャーナリストを沈黙させるための恫喝のツールとして使われることが多い。こうした行為の対象となることへの恐怖感は、言論に対する萎縮効果を生み、自己検閲につながる可能性もある。暗号化や匿名化といったプライバシー保護のツールに対する国家・政府による取締りも、ジャーナリストが安全かつ自由に報道を行う能力を損なっている。こうしたツールのおかげで、報道関係者は検閲を逃れて情報にアクセスし、監視を逃れられるからである。
監視のリスクを回避/最小化するためのヒント
・監視に対する備え
「メディア・ディフェンス」では、政府が実施するものも含めた監視体制による悪影響を抑えるために「プライバシー・インターナショナル」がまとめ、広く認識されている10の原則を簡潔に紹介している。これらの原則は、基本的な権利を擁護することをめざすとともに、理想を言えば、デジタル盗聴を十分に制限する国内法制と連携するための枠組みを提供している。包括的な参考資料としては、アーティクル19による報告Global Principles on Protection of Freedom of Expression and Privacy(表現の自由とプライバシーを守るためのグローバル原則)がある。
・総合的なデジタル・セキュリティのための全般的なヒント
特に監視の対象になりやすいジャーナリストは、ベストプラクティスに従い、プライベートな通信への不当なアクセスを防ぐための簡単な情報セキュリティプロトコルを実践すべきである。
- 自分からネットに出す情報は、気をつけて選別する。自分自身のログイン名、パスワード、連絡先は慎重に保護し、情報提供者についても同様にする。セキュリティの確保されない公衆WiFiの利用を避ける。
- 馴染みのない、あるいはセキュリティの確保されないウェブサイトにはアクセスしない。特に、セキュアなhttps://プロトコルを用いていないサイトは要注意だ(ブラウザのアドレスバーに南京錠のアイコンが表示されているか確認しよう)。
- 可能な限り、SignalやTelegramといった暗号化された経路でコミュニケーションを取る。
- 電子機器では強力なパスワードを使う。複数のアカウントで同じパスワードを使い回さないことを意識する。パスワードは頻繁に更新する。
- 可能な限り、デバイスにロックをかけ、位置情報サービスを無効化する。
ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は、さらに以下のような措置を提言している。
- デバイス、アプリ、ブラウザを定期的に更新する。
- フィッシングやなりすましによる攻撃に注意する。つまり、信頼できる発信者から送信されているように偽装し、マルウェアのインストールに誘い込もうとするもので、WhatsAppのグループやソーシャルメディアのメッセージ、電子メール、SMSなどで送信される可能性がある。メッセージ内に埋め込まれたリンクをクリックすることは避け、検索エンジンで情報を検証するか、公表されている電話番号で直接送信者に電話しよう。
- 編集部のIT担当チームは、DDoS攻撃に備えるためにウェブサイトのセキュリティを強化すべきである。また、ウェブアプリケーション・ファイアウォールを導入し、サーバ容量も余裕を確保する。
- 携帯電話、ノートパソコン、ソーシャルメディアのアカウント上にどのような情報が存在するか見直しを行う。バックアップを取った上で、自分や家族、情報提供者に関する個人情報が含まれる文書や写真、動画は削除する。
- 携帯電話のロック解除にTouchIDや顔認識など生体認証を有効にするかどうかは慎重に検討する。内部のデータや情報提供者に関する情報に対して、自分の意志に反するアクセス手段として法執行機関に利用される可能性がある。
- アカウントからログアウトし、閲覧履歴を消去する。
- さまざまな検索エンジンで自分の名前を検索し、公開されることを望まない元データを削除する。
- トロールによる活動が増加していないか、自分のアカウントを監視する。
- オンラインでのハラスメントのリスクや副次的な影響について、家族や友人と話をする。オンラインでの攻撃者は、ジャーナリストの親族や知人友人のソーシャルメディア上のアカウントを介して、そのジャーナリストに関する情報を取得していることが多い。
- インターネット接続事業者がオンラインでの活動を追跡している懸念がある場合、特に機微な情報を調査している場合は、仮想プライベートネットワーク(VPN)を利用しよう。VPNサービスも、ユーザーのオンラインでの活動を記録している可能性があることに留意し、最も優れたVPNサービスを調べよう。
虚偽の告発や恣意的な拘束/逮捕のリスクへの対応
ジャーナリストは、事実ではない指摘に基づいて違法活動の告発を受ける可能性があり、刑事上の有罪判決を受けかねない。OSCEのSafety of Journalist Guidebook(ジャーナリストの安全に関するガイドブック)が指摘しているように、この戦術は、公益のための報道を抑圧するために利用され、特に報道が国家や公人、強い影響力を持つ組織集団に不利益となる場合に顕著である。恣意的かつ虚偽の告発に基づいて不当に投獄されているジャーナリストもいる。立件されず、あるいは起訴前勾留でもないのに拘束されている——時には長期に——ジャーナリストはさらに多い。
虚偽告発や逮捕のリスクを最小化/回避するためのヒント
不当に拘禁される、あるいは捏造された告発により有罪判決を受けるリスクというのは、時間とともに、また脅威の性質や脆弱性、能力のバリエーションによって変化する、不確定な概念である。したがって、特に業務環境やセキュリティ状況が変化している場合には、リスクを定期的に評価しなければならない。リスクを受容可能なレベルまで低減するために、Reporters Without Borders Safety Guide(国境なき記者団安全ガイド)では、ジャーナリストに次のように勧告している。
- 脆弱性要因を減らす。脆弱性は所在地に関係したり、電話を使えない状況に関係したりする。ネットワーク接続や対応の共有ができない状況とも関連する。
- 防衛力を高める。防衛力とは、グループまたは支援者が、セキュリティを適切なレベルに高めるために利用できる強みやリソースである。防衛力の例としては、セキュリティや法律問題に関する研修、チームとしてのグループ作業、電話や安全な移動手段へのアクセスの確保、支援者との良好なネットワーク、恐怖に対処する適切な戦略などがある。
さらに、SEEMO Safety Net Manual(SEEMOセーフティネット・マニュアル)は、次のように提案している。
- 脅迫を受けている、あるいは外部からの脅威に直面しているが、それを公的に立証できない場合でも、やはりその情報をジャーナリスト仲間に広めよう。
- 圧力に関する証拠は、SMSや電子メールのメッセージ、文書、音声、動画など、すべて安全な場所に保存し、信頼できる人と共有する。
- 立証可能な直接的な圧力や何らかの種類の危険が生じた場合には、報道関係者やメディア団体、さらには一般市民にそのことを伝えるべきである。
- ジャーナリストやその家族に対する脅迫や身体的な攻撃が起きるたびに、警察に通報し、公表する必要がある。
- こうした場合には、ジャーナリスト同士の連帯がきわめて重要になる。深刻な脅迫や身体的な攻撃は、どれも国際的に知らされるべきである。
- さらに、CPJでは逮捕や拘禁に直面している記者のために、Physical and Digital Safety Kit(物理的・デジタル安全キット)を用意している。
デジタル面でのセキュリティに関するアドバイス
- 想定される拘禁または逮捕に先立って、自分のデバイス及びデータを保護する手立てを取ろう。これによって、自分や情報提供者に関する情報に他人がアクセスする可能性を低減することができる。文書や写真も含め、どのようなデータが自分のデバイスに保存されているか、またその保存場所を確認しておこう。
- 自分をリスクに晒すようなデータは削除する。高度な技術力を有する当局や犯罪組織は、それでも削除されたデータを回復できる可能性があることに注意しよう。ブラウザの閲覧履歴は定期的に削除し、あらゆるアカウントから定期的にログアウトしよう。
- ソーシャルメディアのアカウント内のコンテンツにアクセスできる人を制限しよう。電子メール、ソーシャルメディアを中心に、あらゆるアカウントのコンテンツを定期的に見直す。どのような情報が自分や他人をリスクに晒すか知っておこう。
物理的なセキュリティに関するアドバイス
- 報道を行う地域や国において、ジャーナリストとしての自分の法的権利を調べ、理解しておこう。特に、何が逮捕の理由になり、何がならないか、過去にジャーナリストが逮捕された事例及び彼らが受けた扱いの詳細、現時点で[ジャーナリストの]逮捕を行う可能性の高い政府または法執行機関、逮捕された場合に連行される可能性の高い場所、弁護士に接見できる可能性、といった点を確認しておこう。
詳しくは、言語別に編集されたCPJのリスク評価テンプレートを参照されたい。
拘禁/逮捕されたら
- 逮捕の前に、警察官は逮捕される事実とその理由を告げるはずである。場所と時刻、逮捕に至るまでの状況に注意しよう。
- 逮捕の状況を写真または動画で撮影することは避ける方がいい。警察を挑発し、機器の破壊・押収や身体的な危害を受けることにつながる可能性がある。
- 逮捕に関与した警察官について、氏名、階級や所属部隊・部署の番号、容易に識別できる特徴など、できるだけ多くの情報を記録しよう。
- 逮捕の目撃者になりうる周囲の人に注意しよう。
- 警察官に暴行を受けたときには、傷の状態や受けた治療、通院の記録を残すように努める。加害者の氏名や見た目の特徴を覚えておこう。
さらに詳細については、CPJのPre-Assignment Security Assessment(赴任前のセキュリティ評価)または政府による家宅捜索への対処方法に関するGIJNのレポート(特にロシアを中心としている)を参照されたい。
フェイクニュース及びプロパガンダ
「プロパガンダ」「誤情報」、そして「フェイクニュース」といった用語は、意味の上で重なる部分があることが多い。これらの言葉は、故意であるか否かを問わず、情報の共有が害をもたらすさまざまな形を指すために使われている。通常は、特定の倫理的・政治的大義や視点の宣伝に関連したものだ。
欧州評議会は、このグループに該当する知識について三つの明確な用途を区別している。
- 誤情報:虚偽の、または不正確な情報で、誤って、または不注意により生み出され、拡散されるもの。
- 偽情報:世論に影響を与える、または真実を隠蔽することを目的として、意図的に生み出され拡散される虚偽の情報。
- 悪意の情報:害をもたらす意図で提供される真実の情報。
さらに欧州議会は、フェイクニュース及びプロパガンダに共通する要素を特定している。
- 改竄的な性質:虚偽の、または改竄された、あるいは誤解を起こすことを意図したコンテンツ(偽情報)、または非倫理的な説得手法を用いたコンテンツ(プロパガンダ)。
- 意図:不安感を醸成し、分断を起こし、敵意を煽ること、または民主的プロセスを直接妨害する意図を持つコンテンツ。
- 公益:公益の絡む話題に関するコンテンツである。
- 拡散:コンテンツは、コミュニケーション効果を増幅するため、自動化された拡散手法を用いていることが多い。
ソーシャルメディアと偽情報/プロパガンダ
いわゆる「フェイクニュース」は新しい現象ではないが、ソーシャルメディアのような高度な情報・コミュニケーション技術が広く普及したことに伴い、新たな重要性を帯びるようになっている。たとえば、テキスト、画像、動画、リンクがオンラインで共有されることにより、情報は数時間のうちに拡散していく。また、考慮すべきセキュリティ上の懸念も生まれている。とはいえ、ソーシャルメディアと市民ジャーナリストが生み出すコンテンツは、昨今の市民の抵抗活動に関する報道において、ますます重要な情報源となっている。
誤報・デマのリスクを回避/最小化するためのヒント
誤情報対策として、PEN Americaは以下の行動を推奨している。
- コンテンツが真正なものであると思い込まない。ソーシャルメディア上のコンテンツは、すべて慎重に検証する。その方法についての詳細は、GJINの上級者向けガイドや、動画の検証方法に関するFirst Draftのポケットガイドを参照されたい。
- 抵抗運動と関係のあるオンラインのアカウントまたは電子メール・アドレスから発信された情報については慎重に検証する。
- ローカルニュースを中心に、真正なニュースソースの外観を装うことの多い虚偽報道のサイトに注意する。参考として、PoynterによるPolitifact、NewsGuardの追跡センター、Factcheck.orgを見ておくといいだろう。
さらにUNESCOは、以下のチェックリストを推奨している。
- 執筆者/記者、専門性を見極める。この記事を書いたのは誰か。このジャーナリストについて、その専門性や、他に取り組んできた記事など、どれくらい詳しい情報が入手可能か。
- 報道のタイプを見極める。この記事はどのようなタイプか。ニュース報道と、意見、分析、広告(あるいはスポンサー付き/「ネイティブ」広告)といったコンテンツを区別するために、目印を探そう。
- 引用・参照に注意しよう。調査報道や詳細な記事に関しては、事実及び主張の裏付けとなる出典へのアクセスを理解しよう。
- 現地の状況やコミュニティを見極める。
- 多様な声を確認する。さまざまな視点を取り入れるために編集部はどのように努力し、コミットしているだろうか。
風刺
風刺は、表現の自由に関する国際的な規定により、暗黙のうちに保護されている。欧州人権裁判所は、2007年の「Vereinigung Bildender Künstler対オーストリア」事件において、風刺を次のように定義している。「(略)芸術的表現、社会的なコメントの一形態で、現実の誇張と歪曲という本質的な特徴により、自然に挑発・煽動を狙うもの。したがって、こうした表現を行う芸術家への干渉は、特に注意して検証しなければならない」
とはいえ、風刺に対し、主として名誉毀損や著作権侵害の告発という装いで法的な攻撃が試みられる例も頻繁に見られる。風刺と名誉毀損の主な違いは、風刺は公衆に信じてもらうことを意図していないという点だ。風刺は辛辣かつ批判的で、攻撃を意図したものである。
風刺を行うことによる法律的なリスクを回避/最小化するためのヒント
Reporters Committee for Freedom of the Press(報道の自由のための記者委員会)は、風刺に含まれる名誉毀損に関する訴訟を回避するために、以下のようなヒントを示している。
- 似つかわしくない文体を用いることで、その記事が生のニュースでないことを示唆する。
- その記事が掲載される媒体の背景を考慮する。その媒体は、これまでに風刺やパロディを掲載してきたことがあったか、など。
- 出版または放送のタイプを考慮する。紙の雑誌や新聞か、ブログか、テレビやラジオのニュース放送か、雑誌か。媒体の内部での編集状況を考慮する。巻末の批評欄、論説、あるいはニュース欄、風刺サイトや放送だろうか。記事が読まれる主要な地域や視聴者についても考慮する。
- 型破りな見出しを使えば、読者に対し、あらかじめこの記事は生ニュースでないと注意喚起することになる。
- 記事の中に信じがたい、あるいは途方もない要素や、滑稽な名前や馬鹿げた略称の専門家や団体、信じがたい、非論理的な、あるいは度を超えた引用を入れておけば、実際の現実を述べる記事ではないというシグナルになる。
- 実際の名前を使う代わりに、現実の人物の名前に近い、あるいはそれを連想させるような架空の名前を用いる。
- 記事の中では、パロディの対象にする実際の出来事に言及することを考慮する。実際の出来事が人々の記憶に残っているうちに、すぐパロディを発表すれば、その記事が実際の出来事に対するコメントであるという手掛りになる。
- 断り書きを添えておくことも有益かもしれないが、必ずしも責任を回避することにはつながらない。そのままであれば信じてしまうような風刺記事の最後に小さな活字で記載されている場合には、なおさらである。
著作権の問題
著作権は、知的財産権法の一つの形であり、米国著作権局によれば、「詩、小説、映画、歌、コンピューターソフトウェア、建築など、文学作品、演劇作品、音楽作品、美術作品など作者を伴う創造的な作品」を保護するものである。事実、アイデア、システム、運用方法は著作権によって保護されないが、それらを表現する手法については保護される場合がある。
「公正使用(フェアユース)」とは、著作権を伴うコンテンツの使用において、特にその利用による文化的・社会的な便益がコストを上回る場合に、許可の取得や代価を支払うことなく使用できる状況を指す言葉である。これは、当該の使用について法律が明示的な許可を与えていない状況においてさえ適用される一般的な権利である。より馴染み深い権利である表現の自由と同様に、この権利は公式な通知や登録なしに行使できる。
著作権侵害のリスクを回避/最小化するヒント
A Journalist’s Guide to Copyright Law and Eyewitness Media(ジャーナリストのための著作権法及び目撃者としてのメディア)は、著作権関連のリスクを最小化するための要点として、以下を挙げている。
- コンテンツの作者を検証する。「公開する」ボタンをクリックしたのが著作権者であること。
- 明確で簡潔な文言でコンテンツ使用の許可を求め、いつ、どのようにコンテンツを使用するかを説明する。
- 著作権関連の現地法制をチェックする。著作権の公正利用(フェアユース)の解釈は、国によってさまざまである。
- コンテンツや画像を使用する場合には、必ず著作権表示や作者を明記する。ただし、それによって同意無しに個人の氏名を公表することになるため、倫理上の配慮や法的なプライバシー保護の問題も念頭に置くべきである。
- 情報源及び情報の信頼性を常にチェックする。
- 著作権が伴う、または他者に帰属する文書または画像をそのまま再配布しない。インターネット上で見つかる素材は、非常に古いものか、あるいはクリエイティブ・コモンズのライセンスの対象を除き、無料ではなく、著作権法で保護されていないわけでもない。コメントや批判、風刺、その他「公正利用」として素材を使用する強い根拠があると思われる場合は、ベストプラクティスを参照するか、専門の弁護士に相談するべきだ。それ以外の怪しげな「公正利用」の例や、いわゆる「生活の知恵」を頼りにしてはならない。
報道機関の閉鎖
報道機関の閉鎖は世界的なトレンドになっている。権威主義的な体制が抑圧的な法制を採択する例は増えており、世界的にメディアの自由は深刻に蝕まれている。報道機関の閉鎖は、世界中で相当に増加している。
閉鎖のリスクを最小化/回避するためのヒント
- 国家による監視のリスクを最小化するため、デジタル安全性のガイドラインを厳密に守る。
- 国家の検閲に関する現地の法制をチェックする。
- センシティブなコンテンツを隠す。検閲の対象になりにくい報道機関にコンテンツを提供する。
- 苛酷なメディア環境による脅威に直面した場合には、可能であれば国外を拠点として活動する。
注意:この文書に含まれる情報は法律的助言ではなく、そのようなものとして解釈すべきではない。本文書に含まれる情報は、あくまでも参考のために提供されている。
参考資料
GIJN’s Advisory Services: Capacity Building for the World’s Watchdog Media(GJINアドバイザリー・サービス:世界の権力監視メディアのための能力構築)
Seeking Comment for Your Investigation: Tips for the ‘No Surprises’ Letter(調査報道の取材対象にコメントを求める:「驚かせない」質問状を作るヒント)
What to Do When Authorities Raid Your Home(当局の家宅捜索を受けたら)
GJINで本ガイドの編集に当たったのは、Nikolia Apostolou及びReed Richardsonである。冒頭のイラストは、マレーシアの政治漫画家Zunar(Zulkiflee Anwar Ulhaque)による。
メディア・ディフェンスは、自らの報道に対する脅威に直面している世界各地のジャーナリスト、市民ジャーナリスト、独立系メディアのための法的防衛を専門とする唯一の国際人権団体である。現在に至るまで、メディア・ディフェンスでは900件以上の訴訟を支援し、110カ国にわたる数百人のジャーナリストを助けてきた。その活動によって、メディア労働者の被拘束期間が延べ290年間回避され、6億4600万ドル以上の損害賠償を免れ、90人以上の弁護士が研修を受けている。
支援を必要とする調査報道ジャーナリストは、メディア・ディフェンスに紹介するので、是非ヘルプデスクを通じてGJINに連絡していただきたい。
原文はこちら:https://gijn.org/2021/09/01/a-journalists-guide-to-avoiding-lawsuits-and-other-legal-dangers/
この翻訳はGoogle News InitiativeとGoogle Asia Pacificの支援を受けて行われました。
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