資料:調査報道に関連した書籍・映画ガイド

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文:​Mark Lee Hunter(マーク・リー・ハンター)
翻訳:エァクレーレン

この記事はthe Global Investigative Journalism Network (GIJN)によって公開されました。日本語訳はGIJNのご支援のもと報道実務家フォーラムが公開したものです。貴重な情報を提供してくださり心より感謝申し上げます。

This story was originally published by the Global Investigative Journalism Network.
J-Forum publish the Japanese translation with GIJN’s support. 
We’re grateful to GIJN for offering and allowing to translate it into Japanese. 


「調査報道砲」に向けて:
Global Investigative Journalism Network及びStory-Based Inquiryが推奨する読書・映画ガイド


 2013年6月、私たちはグローバル調査報道ジャーナリズムネットワークの仲間たちに声を掛け、調査報道ジャーナリストとして働く上で影響を受けた、ジャーナリズム関連や学術研究、あるいはフィクションであっても、何か書籍を紹介してくれるよう依頼した。その結果が以下にご紹介するリストだが、完全なものではない。リストに追加すべきお気に入りの作品があれば、表題、著者、出版社あるいは[映像の場合は]放送年月日、推薦者を紹介するための簡単なプロフィール、その作品が特別だと思う理由の簡単な説明を送っていただければ幸いである(自薦は控えていただきたい。いくつかの例外はあるが、自薦はまず排除している。自薦を認めるとキリがないので)。ルールは一つ。少なくとも何か一つ重要な点で傑出していると思えないものは、挙げないでいただきたい、ということだ。

 なお、マニュアルや記事の類はリストから外している。前者はInvestigative Journalism Manuals(調査報道ジャーナリズム関連マニュアル)に関するGIJNの資料ページに掲載すべきだし、後者に関しては独立したリストとしてまとめるべきだからだ(その作業は別の誰かにやってほしい。筆者はすでに、無料公開の記事アンソロジー、The Global Investigative Journalism Casebook(UNESCO、2021年)をまとめており、今のところはそれで充分だ。

 今のところ、リストには驚くほど一貫性がある。いくつか同じ名前が繰り返し登場する。優れた作品の要素とは何かという点では、見解の一致が見られる。つまり、調査・分析・構成がハイレベルだということだ。調査報道ジャーナリズムを教える立場にある人は、教育言語が英語であれ、あるいはオランダ語、フランス語、イタリア語、スペイン語であれ、授業で使える資料が見つかるだろう(これ以外の言語での推薦も受け付けるが、通知は英語で書いていただきたい)。筆者はこのリストを見て、一部はすでに読んでいるが、それ以外にも読むべきものがあることに喜びを感じた。学生や同僚の皆さんが同じように感じてくださることを願っている。

 このプロジェクトは現在・将来にわたりオープンソースである。つまり、リストは無償で利用でき、修正内容を他のユーザーに明示する限りにおいて、自由に修正できる。配布・公開の際には、以下のクレジットを付すようお願いする。「Compiled by Mark Lee Hunter with members of the Global Investigative Journalism Network.(Mark Lee Hunter及びGlobal Investigative Journalism Network会員により編纂)」 最終的にこのガイドは、Arab Reporters for Investigative Journalism(アラブ調査報道ジャーナリズム記者連盟)との協力により開発中の、調査報道のための教育カリキュラムに無料の補足資料として組み込む予定である。


推薦者:スティーブン・ドイグ
(Stephen Doig)
アリゾナ州立大学(米国)ナイト・チェア・オブ・ジャーナリズム

 Philip Meyer『Precision Journalism(精密なジャーナリズム)』(1972年) 記者たちに、社会科学における手法の活用を呼びかけ、データジャーナリズム革命の口火を切った。今なお貴重で有益な書籍である。


推薦者:ライラ・マッキー
(Lyra McKee)
マックレイカー(英国)創設者

 Jeremy Scahill『Dirty Wars(汚い戦争)』及びWoody Kleinの『The Inside Stories of Modern Political Scandals: How Investigative Reporters Have Changed the Course of American History(現代政治スキャンダルの内幕:調査報道記者は米国史の流れをどう変えたか)』は要チェック


推薦者:スティーブン・グレイ
ロイター所属のジャーナリスト・著作家

 Dan Morgan『Merchants of Grain: The Power and Profits of the Five Giant Companies at the Center of the World’s Food Supply』(邦訳『巨大穀物商社―アメリカ食糧戦略のかげに』NHK出版)は、いまだ誰にとっても見逃せない作品である。

 Marc Levinson『The Box: How the Shipping Container Made the World Smaller and the World Economy Bigger』(邦訳『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった』日経BP)(2006年)世界の貿易システムに関する本質的な調査であり、本書を読まずしてグローバリゼーションを理解することは不可能である。

刑事司法分野:

 Ray Bonner『Anatomy of Injustice: A Murder Case Gone Wrong(不正の解剖学:誤審となった殺人事件)』(2012年)
 偉大な著者の1人による米国死刑制度に関する見逃せない視点。

戦争について:

 Neil Sheehan『A Bright Shining Lie』(邦訳『輝ける嘘』集英社)(1988年)は、John Vann大佐という男性の物語にフォーカスして、戦争という大きな物語を描く古典的な例である。

 Michael Herr『Dispatches』(邦訳『ディスパッチズーヴェトナム特電』筑摩書房)(1977年)は、映画『地獄の黙示録』にも影響を与えた、戦争に関する最高の描写であり、命がけの洞察である。

 Alfred W. McCoy『The Politics of Heroin in Southeast Asia』(邦訳『ヘロイン-東南アジアの麻薬政治学』サイマル出版会)は、ベトナムにおけるCIAの役割に関する暴露的な著作である(暗部を深く掘り下げているが、すべて真実かどうかは分からない)。

政治について:

 『All The President’s Men』(邦訳『大統領の陰謀』早川書房)(書籍及び映画)
 そう、認めたくはないし、不満はある。だが、この作品に刺激を受けない者がいるだろうか。もちろん、CBSと大手タバコ会社の内情を描いたラッセル・クロウ主演の映画『The Insider』(邦題:インサイダー)も挙げておこう。

調査活動について:

 『Chinatown』(邦題:チャイナ・タウン)(1974年)
 誰もあなたを求めていない怪しげな世界、我々を探しているはずの者が、実は別の方を見ているような世界に探りを入れるという点で、これ以上ない傑作映画。

モーレイ夫人:そこで何をしていたの?
ギテス:地方検事のもとで働いていました。
モーレイ夫人:具体的には?
ギテス:なるべく何もするな、と。
モーレイ夫人:地方検事が部下にそうアドバイスをしていた、と?
ギテス:それがチャイナ・タウンでのやり方です。


推薦者:ドリュー・サリバン
組織犯罪腐敗報道プロジェクト(ボスニア)共同創設者

最も偉大な作品ではないかもしれないが、私自身が刺激を受けたものを挙げておこう。

 Jonathan Kwitny『Endless Enemies(際限なき敵)』(1986年)。この作品では、米国の外交政策が往々にして自滅的なものになっていることを、故人であるIREの主要メンバーが観察している。米国主導によるさまざまなクーデター、ダレス兄弟、CIAのためにイランで活動していたThe Timesの記者、その他貴重なエピソードが取り上げられている。また、同じ著者のヌーガンハンド銀行事件を扱った『Crimes of Patriots(愛国者の犯罪)』(1987年)も古典的名作である。

 Paul Klebnikov『Godfather of the Kremlin(クレムリンのゴッドファーザー)』は、恐らく著者クレブニコフが殺害される原因となった作品で、エリツィン時代のロシアにおけるギャング資本主義を辛辣に観察したものである。特に、近年死亡したことが大いに歓迎された狡猾なボリス・ベレゾフスキーの一件を紹介している。

 (アンドリュー・ウェアによるコメント:私もクレブニコフの作品を推薦したい。ロシアにおける政治の私物化の始まりに関して、これに匹敵する作品はない。)

 Robert Friedman『Red Mafiya』(邦訳『レッド・マフィア』毎日新聞社)(2000年)において故ロバート・フリードマンは、1990年代のロシア・マフィアについて、特にバンク・オブ・ニューヨークを通じた資金洗浄問題に焦点を当て、独力で報じている。

 Moises Naim『Illicit』(邦訳『犯罪商社.Com ネットと金融システムを駆使する、新しい“密売業者”』光文社)(2006年)は、「密輸業者、人身売買業者、海賊版業者はどのようにグローバル経済を乗っ取るか」という副題を冠しており、この副題がすべてを語っている。ミーシャ・グレニーはマクマフィアについてはるかに質の劣る取組みをしているが、あらゆる主題が本書からの借用であるように思われる。

 そして私も先述のスティーブン・グレイ氏と同じくAlfred W. McCoy『The Politics of Opium』(訳注:The Politics of Heroineの誤りと思われる)を推薦する。年を経た古典だが、米国政府がベトナム戦争中にラオスとカンボジアを経由して麻薬を輸送していた状況が詳細に描かれている。人類学的な研究として出発しているが、著者が1960年代に東南アジア地域で長い時間を過ごしていたという事実が、本書に独特の信憑性を与えている。

 (マーク・リー・ハンターによるコメント:McCoyは数年目、CIJサマースクールにおいてこの作品について語っている。非常に印象的な講演だった。彼はある将軍の自宅を訪れ、「あなたがヘロイン取引で盗みを働いたと聞いた」と話しかける。将軍は、自分が潔白であることを証明するためにMcCoyに会計帳簿を示す。)

 Paul Williamsのすべての著作。たいていはアイルランドが舞台で、どれも読みやすく面白い。

 フィクション方面では、HBOで放映された『The Wire(ザ・ワイヤー)』シリーズには、正真正銘のリアルな調査報道がそれなりに含まれている。だが、それを担っているのはジャーナリストではなく、たいていは刑事だ。地域開発プロジェクトに便乗したストリートギャングが代理人を使って資本関係を隠蔽し、資金洗浄を行っている手口を、レスター[訳注:登場人物である刑事の名]が追跡するエピソードなどはよく出来ている。

 James Bamford『Puzzle Palace』(邦訳『パズル・パレス―超スパイ機関NSAの全貌』早川書房)は、調査報道の取組みとして恐らく最も困難な主題、つまり最高機密である国家安全保障局(NSA)を取り上げている。それでも著者は驚くほどの量の情報を集めている。かなり印象的な著作であり、これを出版するために著者は非常に苦労している。著者はその後の2作品、『A Pretext for War(戦争の条件)』『The Shadow Factory(影の工場)』でもNSAを扱っており、ここでもやはり報道の力量を示している。


推薦者:マーク・リー・ハンター
著述家、記者(フランス)

 Jonathan Kwitny『Vicious Circles: The Mafia in the Marketplace(悪循環:市場におけるマフィア)』(1979年)。説得力のある自然な文体で綴られた、組織犯罪に関する優れた洞察。

 David McClintick『Indecent Exposure(公然わいせつ)』(1982年)は、読み物として優れているだけでなく、優れた(ノンフィクション)ビジネス小説である。文芸評論家は誰もが絶賛するが、報道記者は誰も評価していない。

 『Erin Brockovich(エリン・ブロコビッチ)』(2000年)は、スティーブン・ソダーバーグ監督、ジュリア・ロバーツ主演の映画だが、辛酸を嘗める犠牲者、そして彼らに被害をもたらした原因を知る他の情報提供者との関係構築について、素晴らしいお手本を見せてくれる。『All the President’s Men』(邦題『大統領の陰謀』)よりも、この作品の方が仕事上のヒントが含まれている。

 Gilles Perrault『Le pull-Over Rouge(赤いセーター)』(1978年)。息もつかせぬ、それと同時に痛烈な物語。Perraultは、フランスで最後にギロチンにより処刑された男が、当局の一方的な「捜査」と無能な弁護士の板挟みになった様子を描いている。本書の貢献もあって、フランスでは1981年に死刑は過去のものとなった。

 Albert Londres『Au Bagne(徒刑場にて)』(1928年)。フランスがカイエンヌ[訳注:フランス領ギアナ]に設けた流刑地に関するこのルポルタージュが古典となったのは理由がある。これは現実にあったカフカの世界なのだ。ロンドルは徒刑場という制度を批判し、それを廃止するために4つの改革を提案し、実現する。

 Anne-Marie Casteret『L’Affaire du Sang(汚れた血)』(1992年)。フランスのジャーナリズムにおける書籍・調査報道としては屈指の名作。Casteretは、フランス国家の高級官僚が、AIDSウイルスに汚染されている血液製剤を、それと知りながら血友病患者に販売したことを証明した。この告発により当時の政権は崩壊し、その続報は今も話題となっている。医療と犯罪の融合に関する優れた報道である。


推薦者:マーゴ・シュミット
オランダ・フランドル調査報道ジャーナリスト協会(VVOJ、オランダ)ディレクター。(オランダ語、ドイツ語の作品を推薦)

 女性の人身売買を扱ったChris de Stoop『Ze zijn zo lief, meneer(とても上物ですよ、旦那…)』(1992年)。(マーク・リー・ハンターによるコメント:潜入調査・ドキュメンタリーの融合が迫害と不正についての衝撃的な叙述として結実した名作。)

 オランダで、私の最近の教え子に刺激を与えている書籍は、オランダの銀行ABNアムロが2008年に国有化された状況を語った『De Prooi(生贄)』(2009年)である。著者のJeroen Smitはフローニンゲン大学でジャーナリズムを教える現職の教授。

 (書籍や雑誌において)並外れた影響を与えているものとして、ドイツの調査報道ジャーナリストGunther Walraffによる作品がある。

 Gerard Ryle『Firepower: The most spectacular fraud in Australian history(ファイアパワー:豪州史上最大の詐欺事件)』(2009年)は、オフショアリークスの先駆であり、オーストラリアにおける主要作品である。


推薦者:エリック・ヘネカム
VVOJ会員、アーカイブ調査専門家(オランダ)

 Tim Weiner『Legacy of Ashes』(邦訳『CIA秘録 その誕生から今日まで』文藝春秋)(2007年)

 Karl-Stig-Erland “Stieg” Larssonによるジャーナリズム作品全般。たとえば、『Sverigedemokraterna: den nationella rörelsen(スウェーデンの民主主義者:国民運動)』(2001年)


推薦者:アンドリュー・ウェア
調査報道ジャーナリスト、著述家(英国)

 ベトナム戦争については(スティーブン・グレイが)優れた書籍を3点、みごとに選んでくれているが、これもベトナムに関する文献であることを知りつつ、見逃せない1点、Graham Greene『The Quiet American』(邦訳『おとなしいアメリカ人』早川書房)を追加させていただきたい。恐らくフィクションではあるが、フィクションがルポルタージュよりも真実を語るケースの一つである。

 調査ルポルタージュとして長く陽の目を見ることのなかった、Hunter Thompson『Hell’s Angels: The Strange and Terrible Saga of the Outlaw Motorcycle Gangs』(1966年)(邦訳『ヘルズエンジェルズ』リトル・モア)も挙げておこう。


推薦者:リズ・オールセン
Houston Chronicle(米国)所属の調査報道ジャーナリスト。(英語及びスペイン語の作品を推薦)

 Mort Rosenblum『Little Bunch of Madmen(一握りのおかしな奴ら)』(2010年) 世界各地の優れた記者たちからの些細な知恵に溢れている。

 メキシコのジャーナリストSandra Rodriguezによる『La Fábrica del Crimen』(2012年)。調査に裏付けられたフアレス出身のティーンエイジャーの伝記。彼は自らの妹・両親の誘拐/殺害を手配し、それを犯罪組織によるものと偽装し身代金を取ろうとした。事実がぎっしり詰まっているが、傑出した文体で語られている。

 調査報道について語る際に私がこれまで使ってきた優れたドキュメンタリーとして、CNNスペイン語放送の『La Doble Desaparecida』(2003年)がある。資料と対立的なインタビューを駆使した優れた例であり、単に物語としても驚かされる。こちらで視聴できる。

『La Doble Desaparecida』(CNNスペイン語放送)

 メキシコの調査報道ジャーナリストで公的記録活用の専門家であるMaria Idalia Gomezによる『Con la muerte en el bolsillo』(2005年)。彼女はIAPA(米州新聞協会)のためにジャーナリストに対する攻撃について長年に渡る調査を行っている。また彼女のパートナーであるDario Fritzには、麻薬密売について調査した優れた著作がある。

 調査報道分野における英語の書籍として私が非常に気に入っているのが、『The Looming Tower: Al Qaeda and the Road to 9/11』(邦訳『倒壊する巨塔--アルカイダと「9.11」』白水社)(2006年)。Lawrence Wrightが執筆・報告した傑作である。ジャーナリズムを学ぶなら、レベルの如何を問わず、本書の驚くべき各章を読み、脚注に目を通せば勉強になるだろう。


推薦者:セリーナ・ティナリ
調査報道ジャーナリスト、映像作家。(英語、イタリア語及びフランス語(スイス)の作品を推薦)

 巨大製薬企業について調べているのであれば、以下の作品を読むべきである。

 Marcia Angell『The Truth about the Drug Companies』(邦訳『ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実』篠原出版新社)(2005年)

 Jacky Law『Big Pharma: Exposing the Global Healthcare Agenda(巨大製薬企業:グローバル医療のアジェンダを暴露する)』(2006年)。

 John Le Carré『The Constant Gardener』(邦訳『ナイロビの蜂』集英社)(2001年)

 Merrill GooznerThe $800 Million Pill: The Truth behind the Cost of a New Drug』(邦訳『新薬ひとつに1000億円!? アメリカ医薬品研究開発の裏側』朝日新聞出版 )(2004年)

Ray Moynihan、Alan Cassels『Selling Sickness: How the World’s Biggest Pharmaceutical Companies Are Turning Us All into Patients』(邦訳『怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる』ヴィレッジブックス)(2005年)

 Catherine Riva、Jean-Pierre Spinosa『Pourquoi vaccine-t-on les jeunes filles contre le cancer du col de l’utérus? La piqûre de trop』(2010年)

 Marco Bobbio『Giuro di esercitare la medicina in libertà e indipendenza』(2004年)

 Ray Moynihan、David Henry『Disease Mongering(病という商売)』(2006年)


推薦者:フローレンス・グレイヴス
シャスター調査報道研究所(米国)創設者兼所長

 Brooke Kroeger『Undercover Reporting: The Truth About Deception(潜入報道:偽りの真実)』(2012年)は、潜入報道が大切である理由を明らかにしている。著者が数百件の潜入報道記事を集めて作成した、驚くべき必携のデータベースも参照されたい。ニューヨーク大学のサイト(http://dlib.nyu.edu/undercover/ )で公開されている。


推薦者:アブドゥラ・ヴァウダ
アフリカ調査報道ジャーナリストフォーラム(南アフリカ)エグゼクティブ・ディレクター。

 Julian Rademeyer『Killing for Profit: Exposing the Illegal Rhino Horn Trade(営利目的の殺害:サイの角違法取引の真実) 』(2012年)を推薦する。Amazonで、野生動物の密貿易に関する「細心かつ衝撃的、啓発的な叙述」と評価されているのも肯ける。


推薦者:ポール・ラシュマー
調査報道ジャーナリスト、ブリュネル大学(英国)教授。

 Andrew Jenningsによる国際サッカー連盟(FIFA)に関する優れた著作に注目した。特に、『Foul: The Secret World of FIFA』(邦訳『FIFA 腐敗の全内幕』文藝春秋)(2006年)。

 Robert Whitakerによる2つの著作、『Mad in America(アメリカの狂気)』(2002年)及び『Anatomy of an Epidemic』(2020年)(邦訳『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』福村出版)は、精神医学に関する重要な文献として最も頻繁に引用されている。Whitakerの作品は、精神科治療薬が長期にわたって使用された場合の深刻な危険性について、医療界及び一般市民に警告を与えている。彼[の著作]は、この事実に関する標準的な参照先となっている。


推薦者:アナ・アラーナ
ファンダシオンMEPI(メキシコ)ディレクター

 ラテンアメリカからは、グァテマラの代表的な人権活動家であるフアン・ゲラルディ司祭の殺害をテーマにしたFrancisco Goldman『The Art of Political Murder(政治的殺人の手法)』(2008年)を挙げたい。約20万人の民間人殺害・失踪への軍の関与について教会が支援した画期的な報告が発表された2日後に、同司祭は撲殺された。

 Gabriel Garcia Marquez『News of a Kidnapping(誘拐報道)』(1998年)は、1990年代前半のコロンビアで、故パブロ・エスコバル率いるメデジン麻薬カルテルにより数人の著名なジャーナリストらが誘拐・監禁され、その後解放された経緯を詳細に伝えている。(マーク・リー・ハンターによる注:マルケスは、小説家として名声を博する前は有名なジャーナリストだった。彼は依然として優れた記者であり、ジャーナリズムが必然的に芸術を損なうという愚劣な考えに対する暗黙の回答になっている)

 ウィーンにおいて、ユダヤ人の女性相続人として画家グスタフ・クリムトのパトロンであり、その作品のモデルとなったアデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像画と、ナチ支配下におけるその運命、この絵を取り戻そうとする米国・カナダ在住の遺族による法廷闘争を描き出している。

 ピュリツァー賞を獲得したJared Diamond『Guns, Germs and Steel』(1997年)(邦訳『銃、病原菌、鉄』草思社)は、人類の歴史に環境要因が如何に決定的な影響を与えたかに注目している。(マーク・リー・ハンターによるコメント:本書は何ら秘密を暴露しているわけではないため、調査報道との関連については議論が分かれるだろう。本書では、公開情報、中でも驚くほど多様な分野の科学文献を利用し、人類社会が欧州とそれ以外の地域で異なる発展を遂げてきた様子について説得力ある理論を紡ぎ出している)

 最後に、人類学者Oscar Lewisによる『The Children of Sanchez』(1961年)(邦訳『サンチェスの子供たち』みすず書房)を挙げておこう。科学的なフィールドワークと注意深い観察の典型的な例である。


推薦者:ルーク・サンジャース
著述家・ジャーナリスト(オランダ)

 Mark Schapiro『Exposed: The Toxic Chemistry of Everyday Products and What’s at Stake for American Power(曝露:身近な製品に含まれる有毒化学物質と、アメリカの国力にとっての意味)』(2009年)には、著者の職人芸がよく現れている。環境問題に関する調査報道ジャーナリストを1人挙げろと言われれば、この著者だと私は考える。彼は自分に続く世代(私自身もそこに含まれる)に向けて基準を設定し、環境報道が環境保護論者や臆病者のためのものではないことを示した。

 リストに欠かせない本をもう1冊。Eric Schlosser『Fast Food Nation: The Dark Side of the All-American Meal』(邦訳『ファストフードが世界を食いつくす』草思社)(2001年)。Schlosserは、マクドナルドやコカコーラなどを批判したが、訴訟には至らなかった。証拠を示すことがストーリーテリングの障害にならないことの実例である。

 もう1点、90年代の素晴らしい若手経済ジャーナリストに関する名著が与えてくれたインパクトは忘れられない。Bryan BurroughJohn Helyar『Barbarians at the Gate: The Fall of RJR Nabisco』(1990年)(邦訳『野蛮な来訪者--RJRナビスコの陥落』パンローリング)である。この本は企業について何か書くときの方法を一変させてしまった。資本や構造へのフォーカスを弱め、権力と人間に重点を置くようになったのである。


推薦者:デヴィッド・キャプラン
(GIJNエグゼクティブ・ディレクター)

 過去15年のIRE賞書籍部門の受賞作品の中から選んでみた。調査報道ジャーナリストの仲間たちが、もっぱら印象的な方法論や徹底的な調査といった観点から選んだ作品である。ここでは、国際的なアピールが強いと思われる作品を挙げた。IREのウェブサイトでは、1979年以降のすべての受賞作品のリストを見ることができる。

遡って1960年代には、環境、消費者、組織犯罪に関する現代的な報道の確立において、以下の作品が重要な役割を果たした。

  • Rachel Carson『Silent Spring』(1962年)(邦訳『沈黙の春』新潮社) 
    • 環境保護運動の発端であり、それと共に、今日の環境ジャーナリズムを生み出した。
  • Jessica Mitford『The American Way of Death(アメリカ式死に方)』(1963年) 
    • ​英国出身でスキャンダル暴露の達人であるMitfordによるもので、葬儀産業の内幕を暴露した古典である。
  • Ralph Nader『Unsafe at Any Speed(どんなスピードでも危険)』(1965年)
    • ​自動車設計の危険性と自動車産業による隠蔽工作を主題とした本書は、現代の消費者報道の誕生を支えた。
  • Ed Reid『The Grim Reapers(死神たち)』(1969年)
    • ​1960年代の米国マフィアの並外れた影響力に関する、ピュリツァー賞受賞の新聞記者による恐れを知らぬ都市ごとの報告。

最後に、現代米国における調査報道の基礎を築いた進歩主義の時代のジャーナリスト、「暴露屋(the Mucrakers)」たちによる著名な作品を追加しておこう。

  • Ida TarbellThe History of the Standard Oil Company(スタンダード・オイルの歴史)』(1904年) 
    • Tarbellが暴露した、当時の最強企業の一つであるスタンダード・オイルによる不正行為は、注意深く体型的な調査・報道のお手本である。当初は、暴露ジャーナリズムの中心となっていたマクルーア誌における連載だった。
  • Upton SinclairThe Jungle(1963年) 
    • 本書は小説ではあるが、 20世紀初頭の米国食肉加工場における不正行為を鮮明に描きだしたことで世論の憤激を呼び起こし、食品産業に対する政府規制へとつながった。
  • Lincoln SteffensThe Shame of the Cities(都市の恥)(1969年)
    • これらの記事は、米国6カ所の都市における根深い腐敗を暴露している。当初はマクルーア誌に発表された。
  • Nellie BlyTen Days in a Madhouse(精神病院での10日間)』(1887年)
    • ​ニューヨークの新聞記者だったBlyは、潜入取材により同市の悪名高い精神科病院の劣悪な状況を暴露した。彼女による連載記事は社会に衝撃を与え、改革をもたらした。


マーク・リー・ハンターによる補遺(2020年11月25日)

Seymour Hershによる偉大で有用な回顧録であるReporter(記者)』、調査報道のプロセスをこれまでで最もみごとに描きだした映画Sportlight(邦題:スポットライト 世紀のスクープ)』を追加しておきたい。


原文はこちら:Resources: A Guide to Investigative Books and Films
この翻訳はGoogle News InitiativeとGoogle Asia Pacificの支援を受けて行われました。
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