最新動画コンテンツ検証ガイド

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編集:​The GIJN Collection
翻訳:エァクレーレン

この記事はthe Global Investigative Journalism Network (GIJN)によって公開されました。日本語訳はGIJNのご支援のもと報道実務家フォーラムが公開したものです。貴重な情報を提供してくださり心より感謝申し上げます。

This story was originally published by the Global Investigative Journalism Network.
J-Forum publish the Japanese translation with GIJN’s support. 
We’re grateful to GIJN for offering and allowing to translate it into Japanese. 


 「インタビュー」というテーマに関するアドバイスといっても、その趣旨はさまざまだ。調査報道ジャーナリスト向きのものもあれば、警察官や企業経営者、弁護士、ソーシャルワーカー、あるいはそれ以外の立場を対象とするものもある。はっきりしているのは、インタビューは調査を行う者にとってもっとも信頼でき効果があるツールの一つということだ。

 GIJNでまとめたアドバイスの例は主としてジャーナリストによるものだが、他の立場からの声も少数だが取り入れている。

 役に立つ資料は豊富にある。その中でよく使われるのが「技法」という言葉だが、「準備」「聞くこと」という言葉も多く見られる。それだけではない。4つのヒントが含まれるリストもあれば、20、30、40も挙げているものもある。


 研究者やジャーナリストが、YouTubeやTwitter、Facebookなどのソーシャルネットワーク、ファイル共有サイトから利用者の作成した動画コンテンツを取得し、その検証が必要になる例は多い。だがあらゆる動画の検証に使える万能薬は存在せず、動画によっては、投稿者から元のファイルを入手する場合を除けば、検証などほとんど不可能に近い場合もあろう。

 (動画の検証に関するこれ以外の記事は、GIJNのファクトチェック・検証に関する資料ページを参照されたい)

 だが、大半の動画コンテンツの検証に役立つ方法は存在する。特に、衝撃的なニュースを伝える動画が、過去の事件の映像の焼き直しでないかどうかは確認しやすい。動画の検証についてはすでに多くのガイドがオンラインで入手可能だが、特に1つ挙げるとすれば「Verification Handbook(検証ハンドブック)」である。

 本ガイドでは、利用可能なツールの制約を回避する方法など、ベリングキャットのチームが頻繁に利用している補足的なテクニックもご紹介する。「Guide to Using Reverse Image Search for Investigations(調査報道のための画像逆検索の使い方)」(2019年)も参照されたい。本ガイドを読めば、こうしたツール類の使い方だけでなく、創造性を発揮して行き詰まりを回避する方法も分かっていただけるものと願っている。

Verification Handbook(検証ハンドブック)

欠点はあるが便利な「画像逆検索」

 動画コンテンツ検証の第一歩は、画像検証の場合と同じである。Google、あるいはTinEyeなど他のサービスを介して画像逆検索を試すことだ。現時点では、画像ファイルと同じような形で動画クリップ全体を逆検索できるような無料ツールは存在しないため、動画コンテンツのサムネイル画像やスクリーンショットを画像逆検索にかけるのが次善の策ということになる。フェイク動画を作成する人に創造力がある例はめったにない。たいていは、その事件にふさわしくない明白な特徴(ニュースのテロップや、その新たなできごとに合わない内容を誰かがしゃべっているなど)がなく、簡単に入手できる動画を改めてシェアするだけだ。したがって、再利用された動画のファクトチェックは比較的容易である。

 逆検索を行うには二つの方法がある。第一の方法は、手作業で動画のスクリーンショットを取得する。動画クリップの最初の部分か重要な場面を選ぶのが最善だろう。それから、Google Imagesなど画像逆検索サービスに、そのスクリーンショットをアップロードする。第二の方法は、動画共有サイト(たいていはYouTube)が生成するサムネイル画像に頼ることだ。

アムネスティ・インターナショナルYouTube Dataviewer

 ある動画でどのフレームがサムネイルとして自動的に選ばれるかを判断することは容易ではない。Youtubeにアップロードされた動画について最善のサムネイル画像を選ぶためにGoogleが複雑なアルゴリズムを開発しているからだ(詳しくは、この点に関するGoogle Research Blogの記事を参照されたい)。恐らくこうしたサムネイル画像を見つける最も優れたツールは、アムネスティ・インターナショナルのYouTube Dataviewerである。このツールはYouTube上の動画で用いられるサムネイル画像を生成し、1クリックでそれらの画像に関する画像逆検索を実行することができる。

 たとえばYouTube動画の収集サイトである「Action Tube」は最近、リトアニアにおける軍用車の車列を映したとされる動画を投稿したが、出典資料をまったく提示しなかった。さらに、この動画がいつ撮影されたものかも表示されておらず、前日とも5年前とも解釈できるものだった。その後この動画はYouTubeから削除されている。

この動画をアムネスティ・インターナショナルのツールで検索すれば、「ActionTube」がこの動画をアップロードした正確な日時が明らかになる。さらに、4つのサムネイル画像も見つけられ、それらはオリジナルの動画の出元を見つけるため、逆検索にかけることができる。 

YouTube Dataviewer検索例

 逆検索の結果はいずれもオリジナルの動画の出典を直接示すものではなかった。だが、3番目のサムネイル画像から得られた多くの結果は、ある時点で、複数の動画のページにおいてこのサムネイル画像が表示されていたことが分かった。読者がこれらの動画をクリックしても、このサムネイル画像は見つからないかもしれない。YouTubeページの右側に表示される「次に再生」の結果は、各ユーザーに合わせてカスタマイズされているからだ。とはいえ、Googleがそのカスタマイズ結果を保存した時点で、このサムネイル画像の動画が存在していた以上、キャッシュされたページからこの動画を見つけられるということになる。

 これで、オリジナルの動画を追跡し、Action Tubeの動画が本当にリトアニアにおける最近の軍備展開を映したものかを検証するための情報がすべて揃った。サムネイル画像の検索結果から得られた動画の表題を検索してみると、6件のアップロードが見つかる。日付順にソートすると最も古いアップロードが見つかり、これがActionTubeの動画の元素材となっていることが分かる。

 アップロード主について単純に検索すると、欧州におけるNATOの活動について、米陸軍のウェブサイトに記事を書いていることが分かる。つまりこの人物は広報担当の当局者である可能性が高く、彼がアップロードしたものがActionTubeのオリジナル出典であるという信憑性がさらに高まる。


「ひと工夫」の方がやはりアルゴリズムより上

 画像逆検索は多くのフェイク動画を暴露してくれるが、完璧なソリューションというわけではない。

 たとえば、次の動画は4万5000回以上も視聴されている。ウクライナ東部スビトロダルスク近郊で、ウクライナ軍兵士とロシアの支援を受けた分離独立主義勢力との戦闘を捉えたものとされ、タイトルには「ドンバス地方、スビトロダルスク・バルジ地域における戦闘(ウクライナ軍側の視点で撮影)」とある。小銃や大砲の発射が数多く見られる一方で、戦闘のさなかに兵士たちが笑い合っているようにも見える。

「ドンバス地方、スビトロダルスク・バルジ地域における戦闘(ウクライナ軍側の視点で撮影)」YouTubeより

 この動画のURLをアムネスティ・インターナショナルのツールに入力すると、動画がアップロードされた正確な日時が分かり、逆検索に使えるサムネイル画像が得られた。

 結果を見ていくと、サムネイル画像のほとんどすべてが動画のアップロードされた時刻周辺のものであり、この動画は紛れもなく2016年12月にスビトロダルスク近郊で発生した戦闘を伝えているように見えてくる。(下記画像参照)

だが実際には、この動画は2012年のロシア軍による演習の映像である。

「カフカス、2012年夜間訓練」YouTubeより

 Googleの画像逆検索やアムネスティ・インターナショナルのツールをどれほど工夫して使っても、その結果の中からオリジナルの動画を見つけることはできないだろう。このフェイク動画が拡散された後、その虚偽性を解説する記事の中でしかオリジナルの動画は見つからない。たとえばオリジナル動画の正確なタイトル「カフカス、2012年夜間訓練」(2012年に行われた軍事演習を指す)を動画のスクリーンショットと共に検索しても、スビトロダルスクのフェイク動画がヒットするだけだ。この動画がフェイクであることを見抜くには、次の二つのうち一つが必要だった。オリジナルの動画をよく知っているか、笑っている兵士が、進行しているとされる戦闘にふさわしくないという鋭い目(あるいは耳)を持っているか、である。

 では、どうすればいいのか。簡単には答えられないが、ひとつだけ挙げるとすれば、「工夫を凝らしたな検索」である。

 そのための最善の方法の一つは、フェイクの可能性がある動画をシェアする人の身になって考えることだ。上記の例で言えば、兵士が笑っているということは、これは実際の戦闘ではないかもしれないという手掛りになる。すると、ロシア語を話す兵士がこの出来事を撮影しつつ笑っているというのはどういう状況だろうか、という問いにつながる。

 これに似た動画を探したいと思ったら、何を検索するだろうか。恐らく夜間の動画がいいと思うだろう。特定可能な詳しい情報が少なくなるからだ。また、派手な戦闘の映像ではあるが、ドンバス地方での戦闘の情報を追っているウクライナ人、ロシア人に簡単に見抜かれないようなものを探そうとするだろう。すると、ロシア軍、ウクライナ軍、あるいはベラルーシ軍による演習の動画を見つければ条件を満たしそうだ。別の国での戦闘の映像を見つけて、ロシア語話者により吹き替えを施すなら話は別だが。

 「訓練 演習」「夜間」を意味するロシア語で検索すると、まさに最初にヒットするのが、この動画である。オリジナルの動画を突き止める方法が見つからなければ、動画を検証する最善の方法は、それをアップロードした人物に連絡を取ることかもしれない。


細部を見逃さない「デジタル分野のシャーロック・ホームズ」をめざす

 素材を検証するためのデジタルツールの活用には自ずと限界がある。アルゴリズムが騙されてしまう可能性があるからだ。

 画像逆検索によるフェイク検知を回避するためには、簡単なトリックが使われることが多い。動画の左右を反転させる、カラーからモノクロに変換する、ズームアップ/ダウンするなどだ。こうしたトリックをチェックする最善の方法は、動画の背景をなす環境が、問題の「事件」と整合しているかどうか、細部に目を凝らすことだ。

 2016年9月19日、ニューヨーク市とニュージャージーで発生した3件の爆弾事件の容疑者とされる男性がニュージャージー州リンデンで逮捕されたという報道があった。さまざまなソースから数点の写真と動画が提供され、その中に以下の2つがあった。アフマド・カーン・ラハミ容疑者が地面に横たわり、警官に囲まれている映像である。 (下記画像参照)


 ニュージャージー州リンデンで同容疑者が逮捕された正確な場所ははっきりしなかったが、ほぼ同じ場面を別々の視野から捉えていることを考えれば、この2点の写真は本物であると考えるのが妥当だった。下に埋め込んである動画は、地元住民から提供されたものである。明らかにこの動画は本物であり、当日は一日中報道メディアで広く流布された。だが、ニュース速報が打たれる状況の中で、迅速な検証を行って事実確認するとすれば、我々に何ができただろうか。

 ラハミ容疑者が逮捕された場所は2点の写真からすぐに目星をつけることができる。2点めの写真の左下隅には、「8211」という4桁の数字を載せた広告が見える。「-ARS」「-ODY」という単語の断片も確認できる。近くに619号線の交差点があることも分かるから、場所をより正確に特定できる。ニュージャージー州リンデンで「8211」を含む電話番号を検索すると、「Fernando’s Auto Sales & Body Work」がヒットする。これで「-ARS」「-ODY」も「cars」「body」の一部だと分かる。さらに、この「Fernando’s」の所在地がニュージャージー州リンデンの「512 E Elizabeth Ave」であることも分かる。(下記画像参照)

 Googleストリートビューでこのアドレスをチェックすれば、ここまでの推理が正しいことはすぐに裏付けられる。

左:容疑者がニュージャージー州リンデンで逮捕されている写真
右:同じ場所のGoogleストリートビューの画像


 どちらの写真でも、また問題の動画でも、天候は同じで、どんよりと曇っている。動画の26秒の部分では、ドライバーが「Bower St」と書かれた標識、さらには619号線の交差点を示す標識を通過する。これによって、2点の写真から突き止めた場所をクロスチェックする地理情報が得られる。

 Googleマップを見ればすぐに分かるが、Bower StreetはEast Elizabeth Aveと交差する。容疑者が逮捕されたのは、このEast Elizabeth Aveの自動車修理工場の近くだ(黄色い星で示した地点)。

 時間があれば、Googleストリートビューの目印と動画を比較することで、動画が撮影された正確な場所を突き止めることができる。


 それぞれのステップにはかなりの手間がかかるように見えるが、何を探せばいいか分かっていれば、プロセス全体には5分少々しかかからないはずだ。事件の動画素材を提供した目撃者に連絡を取れない場合、その映像を検証するには、細部に注意深く目を凝らし、GoogleマップやGoogleストリートビューでしばらく歩き回るだけでいい。動画素材の検証は、報道におけるルーティンワークの1つになるだろう。フェイクニュースを拡散させる最も簡単な方法の一つが、ソーシャルネットワークでのコンテンツ共有であるのと同じように。


ノイズとシグナルを選り分ける

 動画をデジタル技術により改竄するには相当な労力とスキルが必要で、要素を付け加えたり削除したりしつつ、しかも見た目を自然に保つ必要がある。多くの場合、動画の改竄はファクトチェックの目を逃れるためだけでなく、著作権で保護されたコンテンツを探すアルゴリズムによる検知を避けるためにも行われる。たとえば、映画やテレビ番組、スポーツイベントが、左右反転させた状態でYouTubeにアップロードされている。なお視聴可能で(やや違和感はあるが)、しかもデジタル・ミレニアム著作権法違反は回避できる。動画が左右反転されたものかどうかを手っ取り早く見抜くには、文字や数字を探すのがベストだ。反転したことで奇妙な見え方になるからである。

 以下の一連のスクリーンショットでは、モスクワのドモジェドボ空港爆破事件の映像が、ブリュッセル及びイスタンブールの空港襲撃事件に関するフェイク動画に再利用された。フェイク動画の作者が使った映像効果としては、ビデオの一部のズームアップ、架空のタイムスタンプの挿入、カラーからモノクロへの変換などがある。

 さらに、映像の最上部には目立つロゴが頻繁に追加され、画像逆検索をいっそう難しくしていた。

 それぞれのステップにはかなりの手間がかかるように見えるが、何を探せばいいか分かっていれば、プロセス全体には5分少々しかかからないはずだ。事件の動画素材を提供した目撃者に連絡を取れない場合、その映像を検証するには、細部に注意深く目を凝らし、GoogleマップやGoogleストリートビューでしばらく歩き回るだけでいい。動画素材の検証は、報道におけるルーティンワークの1つになるだろう。フェイクニュースを拡散させる最も簡単な方法の一つが、ソーシャルネットワークでのコンテンツ共有であるのと同じように。


「切り札」は見当たらないが…

 動画をデジタル技術により改竄するには相当な労力とスキルが必要で、要素を付け加えたり削除したりしつつ、しかも見た目を自然に保つ必要がある。多くの場合、動画の改竄はファクトチェックの目を逃れるためだけでなく、著作権で保護されたコンテンツを探すアルゴリズムによる検知を避けるためにも行われる。たとえば、映画やテレビ番組、スポーツイベントが、左右反転させた状態でYouTubeにアップロードされている。なお視聴可能で(やや違和感はあるが)、しかもデジタル・ミレニアム著作権法違反は回避できる。動画が左右反転されたものかどうかを手っ取り早く見抜くには、文字や数字を探すのがベストだ。反転したことで奇妙な見え方になるからである。

 以下の一連のスクリーンショットでは、モスクワのドモジェドボ空港爆破事件の映像が、ブリュッセル及びイスタンブールの空港襲撃事件に関するフェイク動画に再利用された。フェイク動画の作者が使った映像効果としては、ビデオの一部のズームアップ、架空のタイムスタンプの挿入、カラーからモノクロへの変換などがある。

 さらに、映像の最上部には目立つロゴが頻繁に追加され、画像逆検索をいっそう難しくしていた。

この記事は、Bellingcatのウェブサイトに掲載されたものがオリジナルであり、許可を得て転載した。


エリック・トーラー(Aric Toler)は、2015年よりBellingcat所属。ロシア系メディアの検証、ウクライナ東部での紛争、欧米諸国の極右に対するロシアの影響、MH17に対する継続的な調査に力を入れている。

原文はこちら:Advanced Guide on Verifying Video Content
この翻訳はGoogle News InitiativeとGoogle Asia Pacificの支援を受けて行われました。
This translation is supported by the Google News Initiative and Google Asia Pacific.
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