2022年 調査報道大賞・発表
調査報道大賞
2022
Investigative Journalism Award 2022
「調査報道大賞」の第2回授賞作品を、次の8作品に決定しました。
大賞
国土交通省の統計不正問題をめぐる一連の調査報道(朝日新聞)
(授賞理由)
国の現状を市民が知る根本の公的統計が書き換えられ、社会問題の議論や政策立案の基礎になるデータが歪められていたという問題を記者の調査で暴き、市民に知らせた。報道がなければ気づかれなかった重大不正であり、報道後は首相が事実を認め、大臣が陳謝、改善に乗り出すという成果を生んだ。
優秀賞
文字部門:公文書クライシス(毎日新聞)
(授賞理由)
「森友・加計学園」「桜を見る会」などをはじめとして、近年は常に政府の公文書管理や情報公開の問題が報道されてきたが、その根本の構造を長期間にわたる粘り強い取材で具体的に指摘した。メールが恣意的に公文書扱いされていなかったこと、公文書ファイルのタイトルが意図的にぼかされ、情報公開請求されないようにしていたこと、首相官邸の記録が残されていないことなど、この報道がなければ明らかにならなかった事実は多い。
文字部門:森友自殺 財務省職員 遺書全文公開「すべて佐川局長の指示です」の報道(週刊文春/相澤冬樹)
(授賞理由)
森友学園に関する財務省文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局の赤木俊夫さんの妻を取材する中で記者が堅い信頼関係を築き、赤木さんが残した資料に基づき文書改ざんに関連する詳細な情報を報じた。圧倒的弱者が国に向かっていく勇気と強さを感じさせる報道でもある。
映像部門:「NHKスペシャル「緊迫ミャンマー~市民たちのデジタル・レジスタンス~」/「混迷ミャンマー~軍弾圧の闇に迫る~」/BS1スペシャル「動画が暴いた軍の弾圧~ミャンマー クーデターから1年~」/ウェブサイト「What’s Happening in Myanmar?」の一連の報道」(NHK)
(授賞理由)
ソーシャルメディアで発信された動画を集め、衛星写真や証言とも照合してデモ参加者が軍の発砲で死亡したことなどを明らかにした。公開情報を分析するOSINTの手法を日本のメディアとして本格的に導入しただけでなく、人々の証言を丹念に集める従来の調査報道の手法を組み合わせ、現地取材が十分にできない出来事に対応する新しい調査報道の形を示した。また、ミャンマーを報じ続けることでアジアのメディアとしてのあり方を示した。
「偽りのアサリ ~追跡1000日 産地偽装の闇~」(CBCテレビ)
(授賞理由)
3年に及ぶ調査報道により、「熊本産」として販売されるアサリの産地偽装の実態を明らかにした。輸入アサリを日本の干潟に放つ「畜養」と呼ばれる行為を撮影した生々しい動画や証言者の映像は放送メディアならではの表現でインパクトをもたらした。また地方メディアによる地道な取材が、全国で大きな反響をおこし、ローカル放送局における調査報道の重要性を示した。
デジタル部門:「キッズライン」問題を明らかにした報道(Business Insider Japan他/中野円佳)
(授賞理由)
信頼できるシッターサービスへのニーズが広がる中で起きた事件について、「シェアリング・エコノミー」の社会的責任、口コミ・レビューのあり方などネットビジネスのかかえる課題について、長期間に渡って多角的に取材し、終始、報道をリードした。デジタルメディアにおける調査報道の可能性を提起した。
選考委員特別賞
中国新疆ウイグル自治区の強制不妊疑惑などを巡る調査報道(西日本新聞)
(授賞理由)
中国当局が「西側のでっち上げ」と否定してきた中国新疆ウイグル自治区の少数民族抑圧を、公式統計を読み解くことで明らかにし、当局が否定できない不都合な事実を掘り起こしたほか、監視の目をかいくぐって施設に迫る現地ルポも報じた。
「すくえた命~太宰府主婦暴行死事件~」(テレビ西日本)
(授賞理由)
激しい暴力を受けた後に死亡した女性は、脅迫を受けていることを家族が警察に十数回相談していたのに、警察は動かず最悪の結果になったことを掘り起こし、1年かけて検証。粘り強く続報も出し続け、警察の不正義を明らかにした。
選考について
授賞作は、期間中に応募・他薦された106件の作品の中から、報道実務家フォーラムに2017年以後参加した報道実務家による投票と、選考委員会による厳正な審査を経て選ばれました。
【選考委員】
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ジャーナリスト江川紹子
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© 森清
作家塩田武士
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ジャーナリスト長野智子
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東京工業大准教授西田亮介
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情報公開クリアリングハウス理事長
報道実務家フォーラム理事三木由希子
授賞式の開催について
9月2日(金)18時~20時(場所 都内を予定)
※授賞式の様子はオンライン配信を行います。
※状況次第では授賞式自体をオンライン開催といたします。
調査報道大賞は、すぐれた調査報道を顕彰し、その社会的意義を広めるとともに、現場で取り組む取材者を励ますために設立されました。
- 主催:特定非営利活動法人報道実務家フォーラム、スローニュース株式会社
- 詳細:調査報道大賞ウェブサイト https://www.j-forum.org/award2022/
- 対象:ジャーナリストの調査で分かったことを報道する調査報道であって、次のいずれかにあてはまるもの。
- 2019年4月1日以後に発表された
- 2019年4月1日以後に成果が顕著になった(10年前の報道の意義が、2019年4月以後の行政や司法の動きであらためて明らかになったなど。例として、1988年に毎日新聞が報じた薬害エイズ問題が、1996年以後の当局の動きで注目され、再評価されたというようなケース)
選考委員からのコメント
江川紹子(えがわ・しょうこ)・選考委員長コメント
2回目の今回は、昨年以上にたくさんの応募がありました。地道に事実を重ねた力作の数々から賞を決定するのは容易ではなく、選考委員はじっくり議論を重ねました。その末に、素晴らしい作品を選出し、発表の日を迎えることができたのは、大きな喜びです。
今、世界も日本も、激しく動いています。戦争が起き、強権的な国家が存在感を増し、様々なプロパガンダや情報の操作・隠蔽が行われている中で、日本社会も試練の時を迎えています。
そんな時だからこそ、人々に考えたり判断したりする材料を提供するジャーナリズムが、その役割を果たすことが求められます。調査報道大賞は、埋もれた事実を掘り起こし、あるいは人々の目に触れない事実に光を当てる調査報道に携わるジャーナリストたちを応援する賞であり続けたいと思います。
澤康臣(さわ・やすおみ)・調査報道大賞実行委員長コメント
もしこれらの報道がなかったら…。授賞作はもちろん、100を超す候補作それぞれが「報道されなければ明かされなかった」問題や視点を掘り起こしています。国や警察の不正、卑怯な行為、消費者を欺き危険にさらすビジネス、人権と民主主義を踏みにじる圧制者の動きなど、記者が懸命な取材をしてはじめて明らかになるものばかりです。苦労とリスクをいとわず取材する記者たちは、市民が議論し行動する良心を堅く信じ、市民に貢献するファイターだと思います。いま、メディア不信に本気で応えるためには「お行儀良く」「迷惑を掛けない」以上に、アグレッシブな真実暴露があってこそではないでしょうか。今回授賞作はいずれも、記者がときに強く、ときに優しく、闘い抜いた成果です。