調査報道における写真:記事を充実させる画像とは
編集:CJ Clarke、Damien Spleeters、Juliet Ferguson
翻訳:エァクレーレン
この記事はthe Global Investigative Journalism Network (GIJN)によって公開されました。日本語訳はGIJNのご支援のもと報道実務家フォーラムが公開したものです。貴重な情報を提供してくださり心より感謝申し上げます。
This story was originally published by the Global Investigative Journalism Network.
J-Forum publish the Japanese translation with GIJN’s support.
We’re grateful to GIJN for offering and allowing to translate it into Japanese.
調査報道記事に生命を吹き込むという点で、優れたフォトグラファーの右に出る者はいない。調査報道ジャーナリストがやらかす最悪の犯罪の一つは、優れた記事のために何カ月もかけて取材する一方で、「見せ方」にはほんのわずかの時間しか費やさないことだ。(デザイナーやグラフィックアーティストだけでなく)腕利きのフォトジャーナリストと仕事ができることは、大きなプロジェクトに取り組む際の紛れもない喜びの一つとも言える。
喜ばしいことに、このたび、調査報道における写真の活用に関する新たなハンドブック「Investigative Photography: Supporting a Story with Pictures(調査報道における写真:記事を充実させる画像とは)」(CJ Clarke, Damien Spleeters, and Juliet Ferguson)が出版された。ロンドン大学シティ校を本拠とする英調査報道ジャーナリズムセンターの人々の協力によるものであり、今月初め、CIJサマースクールで発売イベントが開かれた。
CIJが同ハンドブックの概要をここで公開することを許可してくださったことに感謝する。文書の撮影、画像の保存、失われた情報の回復について、有益なヒントが得られることと思う。また、ハンドブック本体には、紛争中や紛争後の地域における特派員のために、信頼性の高い銃器の撮影方法について充実したセクションが設けられている。
「本マニュアルは、ジャーナリスト、NGO職員、写真が職務に役立つ可能性のある人々のために書かれたものである」と著者らは説明している。「良い写真を撮るためのガイドではなく、証拠収集のためにカメラをどう使うかというガイドである」。 調査報道プロジェクトに、犯罪科学における写真技術をどう取り込んでいくか。このガイドが手掛りになるだろう。
編者
文書を撮影する
文書の写真を撮る際に何よりも大切なのは、記された言葉をできるだけ鮮明に読み取れることである。理想をいえば、RAWモードで撮影可能なカメラ、あるいはフィルムカメラが必要になるだろう。最も重要な要素はライティングである。特に綴じられた文書や書籍のページなど、平坦ではない表面を撮影するならばなおさらである。できるだけ自然光に近い状態で撮影し、フラッシュや蛍光灯など、グレア(光沢)の原因となり可読性を損なってしまうような要素を避けよう。
綴じられた文書を撮影のためにバラすことが可能ならば、三脚を使い、カメラが文書を真上から見下ろし、三脚の脚が邪魔にならないようにセッティングしよう。そのためには、2本の脚を縮め、もう1本の脚を伸ばしてバランスを取るといいだろう。
1枚ものの文書を複数撮影する場合は、1つの文書に合わせてフォーカスを合わせたら、文書の端がどこになるかテーブルにマーキングしておく。そうすれば次の文書に差し替えたときにフォーカスを合わせ直す必要はない。綴じられている文書や書籍の場合は、このやり方はうまく行かないので、別々にフォーカスを合わせなければならない。それでも、どこに文書を置くかという目安としてマーキングを利用することはできる。
ベーシックなカメラしか使えなかったり、三脚を使った撮影のために文書をバラすことができない場合には、ページの部分ごとに撮影して、後でそれを合成することを検討しよう。モノクロ撮影が可能なカメラであってもカラーで撮影する方が、結果としてはるかに鮮明になる。
画像の保存
すべての画像のバックアップを取り、ハードディスクの故障に備えることは死活的に重要である。大半のフォトグラファーは、作品バックアップ用に2台目のハードディスクを用意し、別拠点に置いている。3台目、4台目のハードディスク、あるいはDVDへのバックアップを取っている人もいる。撮影用にデジタルカメラを使っている場合には、RAWまたはJPEG形式のファイルのバックアップを取り、画像にはできるだけ変更を加えず、画質改善の目的だけに留めるようにしよう。
デジタル画像のワークフローにおけるベストプラクティス
ファイル形式
大半のデジタルカメラはさまざまなファイル形式を使用している。最も一般的なのはJPG/JPEG形式である。カメラによってはRAW形式を採用している。もし自分のカメラでRAWを選択できるのであれば、画像を撮影する際には常にRAWモードにしておけば、最も高品質な画像が得られる(ただしファイルサイズはその分大きくなる)。RAW形式の性質上、ファイルを開いて好きなだけ変更を加えても、画質は決して劣化しない。これが、証拠を記録する上でのRAW形式の優位点だ。
欠点があるとすれば、画像を使う際には一般的に表示可能なファイル形式(TIFFかJPEG)に変換する必要があり、したがって写真編集ソフトが必要になるということだ。上位機種のカメラではRAW形式とJPEG形式を同時に撮影できるものもある。締切やセキュリティ上の理由で画像を送信する必要がある場合は、この方式を使おう。
低価格のカメラや携帯電話内蔵のカメラの場合は、JPEGが唯一の選択肢である。したがって、常にオリジナルの画像は保存しておき、作業用にはコピーを使うようにする。JPEGファイルを開いて作業する回数が増えるほど、画質の劣化は進む。
閲覧、編集、メール送信、印刷のためには、写真をカメラからパソコンに転送する必要がある。この作業は定期的にやっておくべきで、さもないと画像を失う恐れがある。センシティブな画像や、データを差し押さえられる可能性がある場合には、できるだけ早い機会にパソコンに転送しておくべきだ。
ファイル名のつけ方
写真を証拠として成立させるためには、標準的なワークフローを開発しておくのが得策である。オリジナルの画像はハードディスクかCDに保存する、オリジナルのファイル形式を維持する、ファイルをリードオンリー(編集禁止)にする、編集したファイルは名前を変更する、といった具合だ。正確なアーカイブを作り、自分のファイルを常に把握しておくためには、画像を発見・特定し、必要に応じてオリジナル画像に関係付けるために必要な重要情報が分かるように、一貫性のあるファイル名を使うことが大切である。ファイル名のつけ方という点で優れたシステムとは、日付、プロジェクト名称、オリジナルファイルへの参照、通し番号を含むものである。
画像を安全に守る
暗号化は、機密データの維持に伴うリスクを軽減するものの、根絶するわけではない。国によっては暗号化という行為そのものが違法とされており、暗号化ソフトを使用するだけで、当局としてはフォトグラファー又はその所属組織を捜査する十分な口実になる場合がある。作品を保護するために暗号化を用いると決めた場合には、「TrueCrypt」の利用を検討しよう。すでに暗号化されたボリュームの内部に「隠しボリューム」を作るという仕組みがある。(訳注:TrueCryptは現在更新されておらず、主にVeraCryptがその後継的役割として用いられることが多いようである)
消えた情報を復活させる
上書きされるか、メモリーカードから完全に抹消されない限り、画像を復旧することは可能だ。メモリーカードから画像を消去することを強要される、あるいはセキュリティ上の理由で消去する場合でも、そのカードを使い続けなければ、画像を取り戻すことはできる。
画像を取り戻すためには、そのためのソフトウェアが必要だ。DataRescue社のPhotoRescue、DataRecoveryWizard、SanDisk社のRescuePro(訳注:いずれもリンク切れ)を試してみよう。
注意:画像を消去するのではなく、ディスクを初期化してしまった場合には、画像の回復は困難になる。初期化したディスク上の画像を回復するには、もっと強力なタイプのソフトウェアが必要になる。
画像を外部に送る
理想を言えば、撮影した画像はできるだけ早く編集部や所属組織に送ってしまいたいところだ。低解像度のJPEGファイルであれば、単にメールで送ればいい。RAW形式など、メールに添付するにはファイルサイズが大きすぎる場合には、YouSendIt(訳注:リンク切れ)などオンラインファイル共有サービスを試してみよう。
この場合もやはり、身の回りのセキュリティ状況を考えて、自分自身と自分の画像の安全をしっかり守るようにしたいところだ。送信する前にファイルを暗号化するか否か、いや、そもそも送信するリスクを負うべきか否かという判断は、仕事をしている環境しだいである。ファイルをオンラインで送信することが危険すぎるのであれば、メモリーカードやフィルムを安全に保管する方法を考えよう。
確実な消去方法
先ほどのセクションで見たように、メモリーカードから画像を消去しても実際には消えていないし、カードを初期化しても、完全に消去できたという保証はない。一般論としては、失われた画像を回復できることが多いというのは悪い話ではない。だが、時には画像をカードから完全に消去してしまいたい場合もある。そのための最も簡単な方法は、カードを初期化してから、新たに撮影した画像でカードを埋めることだ。これによって画像の残存データは上書きされ、以前にカード上にあった痕跡はすべて消去される。
メモリーからデータを完全かつ永久に削除するソフトウェアとしては、たとえばSanDisk社のものがある。カード上のデータの完全消去は複雑なプロセスで長い時間を要する場合がある。また、ひとたび完全消去・上書きをすれば、データを回収する方法はない。したがって、本当に完全消去が望ましいのかしっかりと確認しよう。
同じことはパソコンのハードディスクにダウンロードしたデータについても言える。永久に消去したいのであれば、Eraserという無料ソフトウェアを利用できる。
銃器の写真を適切に撮る
紛争中、紛争後の地域における他国の特派員は、あらゆる種類の兵器、弾薬、残骸や軍需物資を目の当たりにすることが多く、それらは重要な証拠の一部になる可能性がある。その存在を十分に記録することは非常に大切だ。
銃器の鮮明な写真をうまく撮影するだけでもたいしたものだが、状況全体を把握するにはそれだけでは十分ではない場合もある。
- 可能な限り、対象物の鮮明、無加工な全体像を、遮るものなしに撮影する。たとえば、地面に置いて上からのフレーミングで撮影するなど。
- 兵器を両側から、後で拡大できるように高解像度で撮影する。
- 一般的でない銃器や珍しい改造型の場合は特に、後で大きさを判断できるように、比較対照できる物体を並べておくのが定番の手法である。
- 兵器に何か刻印がないかチェックし、あれば鮮明に撮影しておく。たとえば製造所名、標章、製造番号、口径、バーコード、検印などである。簡単に見つからない場合もあり(照準器の下や銃身上をチェックしよう)、また複数見つかる場合もある。許される限り、徹底的に時間をかけてチェックしよう。セレクターや安全装置、照準器の刻印を撮影しておくことも大切だ。兵器のどの部分にマーキングがあるかも覚えておこう。
- たとえば戦闘員と共に兵器を撮るなど、文脈を伝える写真を撮ろう。そうすれば、その銃器を目にした全体的な環境を伝えやすくなる。
CJ Clarkeは、受賞歴のある映像作家・フォトグラファー。これまで複数のNGOのために、ルーマニアにおけるHIV、スリランカの貧困などの問題を取材している。現在は「セーブ・ザ・チルドレン」で仕事をしている。その作品はガーディアン、サンデータイムズなど多数の刊行物に掲載された。
Juliet Fergusonは、ロンドン在住のフォトグラファー、ジャーナリストである。最近、セントラル・セント・マーチンズ・スクール・オブ・アートで写真論専攻課程を修了した。旅行雑誌の記事執筆・写真撮影を行ってきたが、現在では芸術・抽象作品に力を注いでいる。
Damien Spleetersは、はベルギーを本拠とするフリーランスのジャーナリスト。複数の紛争を取材する一方で、ベルギー製小火器の拡散やベルギーの兵器ブローカーの活動を調査している。
原文はこちら:Investigative Photography: Supporting a Story with Images
この翻訳はGoogle News InitiativeとGoogle Asia Pacificの支援を受けて行われました。
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