調査報道大賞スペシャル2021 講座詳細・講師紹介【終了】

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開催情報

日本記者クラブ10階ホール 東京都千代田区内幸町2-2-1リアル参加 … 3,500円
オンライン参加 … 3,000円
ご参加いただいた方へは、当日の資料などをオンラインでご覧いただけるよう準備しております。後日、当サイトへのログイン方法をメールにてお送りいたしますので、今しばらくお待ちください。

講座① 10:40-12:00 菅首相長男違法接待問題を巡る報道(週刊文春)=優秀賞受賞作
権力と向き合う調査報道とは

  • 週刊文春編集長加藤晃彦

 菅政権下の昨年10月から12月にかけ、衛星放送などを運営する東北新社の部長職にある首相の長男が許認可権を持つ総務省幹部を接待していたことを「週刊文春」が暴きました。一連の報道は写真や音声、内部文書に基づいて詳細にわたり、国家公務員倫理法に基づく倫理規程が禁じる利害関係者からの違法接待であることを総務省も内部調査をして認めることとなり、9人に対する減給や戒告の懲戒処分、2人の訓告処分にもつながりました。一方でこの報道は、1990年代の「ノーパンしゃぶしゃぶ問題」以降も総務省を巡って違法接待が行われていたことも明らかにするなど、官民癒着の構造が依然として存在し続けていた実態にも迫りました。「権力」の暗部を白日の下にさらけ出す調査報道の真骨頂ともいうべき成果です。炸裂した「文春砲」は、支持率が低下傾向にあった同政権の大きな痛手となりました。調査報道で肝心なのが、「端緒」の情報からどのようにファクトを積み上げるのか。地道に時間をかけて関連情報を積み上げていったという取材経過にも注目です

加藤晃彦
1997年、文藝春秋に入社。2001年「週刊文春」に異動。記者として大島理森農水相の秘書官の口利き疑惑を報じ、大島氏は辞任。その後「ナンバー」、『文藝春秋』などを経て、2012年「週刊文春」特集班デスクに。甘利明経済再生相の現金授受問題など主に政治記事を担当。2018年7月、『週刊文春』編集長に就任。2019年、菅原一秀経産相、河井克行法相の公選法違反を報じ、2週連続で大臣が辞任。2020年、黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀をスクープ。

講座② 13:00-14:20 医学部不正入試を巡る報道(読売新聞)=大賞受賞作
医学部不正入試問題はこうして取材した

  • 読売新聞ロサンゼルス支局長(元社会部次長)渡辺晋

※米ロサンゼルスよりオンラインで中継講演

 東京医科大が医学部入試で女子が不利になるよう、得点を操作していた−。2018年8月、読売新聞が報じたスクープは、受験生や医学界、教育界にとどまらず、社会全体に大きな衝撃を与えました。

 女子差別や恣意的な入試選抜に抗議の声が上がり、文部科学省も調査した結果、他大学でも不適切な事案が次々と見つかりました。東京医科大の調査では、政治家から特定の受験生を合格させるよう依頼があったり、寄付による入試優遇が疑われたりしたケースも指摘されました。そして、訴訟をはじめ当事者がアクションを起こし、さらには大学入学者選抜実施要項の見直しにつながるなど、報道が社会を変える良い結果につながりました。女性が社会で活躍することへの厚い障壁を明らかにし、世論にインパクトを与えたことを評価されて第1回の調査報道大賞に輝いたこの報道。記者たちはどのように端緒をつかみ、裏付けたのでしょうか。取材班の奮闘を話していただきます。

読売新聞ロサンゼルス支局長(元社会部次長)渡辺晋

渡辺晋 
読売新聞で東京本社社会部に17年在籍し、検察担当や国税担当を務めるなど主に事件取材や調査報道を担当。外国人技能実習制度や難民認定制度に関する取材や連載にも携わった。司法記者クラブキャップ、社会部デスク、国際部デスクを経て、2021年6月から現職。死刑制度や妊娠の人工中絶、移民問題など米社会のあり方が問われるテーマに注目して取材している。

講座③ 14:40-16:00 関西電力金品受領問題を巡る報道(共同通信)=優秀賞受賞作
関電役員らの金品受領問題の舞台裏

  • 共同通信札幌支社編集部次長(元社会部記者)長谷川智一

 原子力発電所設置者である関西電力の経営陣と、原発立地自治体の元幹部による多額の金品授受。水面下の不正なやり取りを暴いた共同通信の2019年9月のスクープとその続報は、未だ賛否が分かれる原発とカネの問題に鋭く切り込みました。関西電力高浜原発が立地する福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)から関電の八木誠会長(当時)を含む役員ら6人への不正な金品を追った報道は、会長と社長を含む20人が計約3億2千万円を受領していたとの関電の調査報告、そして関電最高幹部の辞任につながりました。報道は森山元助役と関電の長年にわたる癒着の実態を解明し、関電の企業体質を問い、国のエネルギー政策への影響などを多角的に伝えました。原発関連施設がある全国の自治体でも同様の事案は起きうるという警鐘にもなっています。

 消費者にとってその内訳の実態を知ることが難しい電気料金を原資とする「原発マネー」の問題は、幅広い層に強い関心を呼びました。関係者の口が堅く、難易度の高い原発取材をいかにして進めたのか。端緒から一連の報道に至るプロセスをお話しいただきます。

共同通信札幌支社編集部次長(元社会部記者)長谷川智一

長谷川智一
2002年共同通信入社。横浜支局、札幌編集部、社会部を経て現職。社会部で検察庁、国税庁、証券取引等監視委員会、元号取材班などを担当。「関電役員らの金品受領問題」で2019年度新聞協会賞受賞

講座④ 16:20-17:40 NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(NHK)=優秀賞受賞作
〝彼女は安楽死を選んだ〟制作の舞台裏

  • NHK報道局社会番組部統括プロデューサー高倉基也
  • 大型企画開発センター エグゼクティブ・ディレクター笠井清史

 人の死、その決断から死の瞬間までを全てカメラに収めた報道。そんなものがかつてあったでしょうか。

 「私が私であるうちに安楽死をほどこしてください」

 2018年、一人の日本人女性が、スイスで安楽死を選びました。女性は重い神経難病を患い、自分らしさを保ったまま亡くなりたいと願っていました。患者の死期を積極的に早める安楽死は日本では認められていません。そんな中でいま、民間の安楽死団体が海外からも希望者を受け入れているスイスで、安楽死することを希望する日本人が出始めているのです。

 「私たちは間違っていないのか。安楽死を受け入れていいのか」

 死を選んだ彼女を見守る姉妹たち。彼女らもまた、悩み続けます。

 人の死とその選択はどうあるべきなのか、重い問題を突き付けたのが、NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」です。死へ向かう彼女の姿と家族の苦悩、そして死の瞬間までをなぜカメラに収めることができたのか。多くの課題をはらむ難しい問題をどう扱い、表現しようとしたのか。制作現場から報告していただきます。

高倉基也
1993年NHK入局。報道番組ディレクターを経てプロデューサー。主な番組にNHKスペシャル「こども輝けいのち こころの二人三脚」(2003年 ギャラクシー特別賞)「ママはイラクへ行った」 (2008年 ギャラクシー賞選奨)「水爆実験60年目の真実 ~ヒロシマが迫る〝埋もれた被ばく〟」(2014年 早稲田ジャーナリズム大賞/放送文化基金賞)「きのこ雲の下で何が起きていたのか」(2015年 地方の時代映像祭優秀賞・NYフェスティバル銀賞) 「彼女は安楽死を選んだ」(2019年 調査報道大賞優秀賞)など。

笠井清史
1990年NHK入局。報道局社会番組部などでNHKスペシャルやクローズアップ現代などの取材・制作を手がける。Nスペ「戦慄の記録  インパール」(2017年 芸術祭優秀賞 橋田賞)、同「彼女は安楽死を選んだ」 (2019年 調査報道大賞・優秀賞)、 同「患者が“命を終えたい”と言ったとき」 (2020年)、「中国新世紀」(2021年)など国内外の社会的な問題を発信してきた。