報道実務家フォーラム[拡大版]2017

投稿日:

この調査報道のアイデアと進め方は?
社会を動かしたあのスクープ、どう取った? 
デジタルテクや情報公開を使いこなせる記者になりたい!

…そんな思いを実現する2日間、濃すぎるほどのメンバーと語る空間

5月20日(土)、21日(日)
2日間に8講座を集中開催

社会にインパクトを与えたスクープ、議論につながる好企画など、良い報道を手がけた記者らの話を聞き、取材報道の現場スキルや知識を高める場「報道実務家フォーラム」が、土日2日間連続、一挙8講座を開催する「拡大版」を開きます。

記者、編集者としての力をお互いに一段伸ばしましょう。

1日目の夜には交流懇親会も開きます。講師と直接話して経験を聞いたり、他社の記者と知り合って意見交換したり…ネットワークを広げる貴重な機会です。

開催情報

早稲田大学早稲田キャンパス3号館​701教室(20日)/202-203教室(21日)〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1丁目6−1
会場のマップを見る

主催:取材報道ディスカッショングループ・早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース
後援:​世界調査報道ネットワーク(GIJN)

フォーラム時間割

5月20日(土)

12:10 開場
12:40 開会 全体のご案内・説明など


12:50~14:10 

講座① 情報公開法 調査報道にどう活かすか
青島顕(毎日新聞社会部編集委員)
三木由希子(NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長、専修大学非常勤講師)

南スーダンPKO派遣日報、森友学園問題と、情報公開請求を端緒とした事件・問題が政権を揺さぶっている。新聞紙面には、情報公開請求で入手した情報を活用した記事も増えてきている。
 情報公開制度を使うということは、知りたいこと、わからないこと、明らかにされていないことがあるという問題意識が端緒になる。この問題意識は調査報道の取材と同じことであり、だからこそ情報公開制度は調査報道における取材手段として相性がよく、世界中で活用されている。なにより、情報公開制度があり、公開されればそれは公文書という確実な情報源になる。
 一方で、請求してみないとどのような情報が公開されるかわからないという点では、取材を始める時にすべてを見立てることができないという不確実性もある。
 どのように情報公開制度を調査報道で活かすか。これまでの報道事例も見ながら、考える場としたい。


14:25~15:45 

講座② 警察組織とどう向き合うか
~不祥事スクープ、取材環境、そしてこれからの警察取材
中沢直紀(読売新聞大阪社会部記者)

 特ダネ競争の舞台である警察の記者クラブは、捜査幹部らとの良好な関係を優先し、批判記事はなんとなく書きにくい――。そんな指摘を外部から受けることもあるが、大阪府警の記者クラブの報道各社は、ここ数年、大量の捜査放置、証拠捏造、誤認逮捕など数々の不祥事をこぞってスクープし、何度も新聞の一面を飾ってきた。2014年には、府警が窃盗事件など約8万件を犯罪統計に計上せず、犯罪を少なく見せかける不正処理を行っていたことが明らかになったが、暴かれるきっかけは読売新聞の取材だった。
 こうした不正の端緒を、いかにつかみ、どう裏付け取材を進めていったか。長期取材の経緯を振り返るとともに、こうした報道が活発に行われる大阪府警とメディアとの関係、記者クラブの取材環境についても紹介したい。これからの警察取材はどうあるべきか。「調査報道」とは相いれないのか。参加者と考えるきっかけとしたい。


16:00~17:20 

講座③ 福島(Fukushima)をどう伝えるか
藍原寛子(ジャーナリスト、元福島民友新聞社記者)

 世界でも最悪レベルの放射能事故となった東電福島第一原発事故後、多数の人々が福島に殺到しました。私は地元のジャーナリストとして、国内外のメディアの記者や映画制作者、大学や研究機関の研究者、また海外の公的機関の調査員、国内外のCSOs(市民社会組織)から依頼を受け、取材や調査、コーディネートや通訳をしてきたほか、時には福島の現状について逆取材を受けてきました。
 「明日、福島に入ってほしい」と言われた時、最低限何を押さえておくべきでしょうか。また、どのような視点、立場、姿勢で福島を捉えていったらいいのでしょうか。震災前に約20 年間、地元紙の記者として取材してきた立場から、材料を提起し、意見交換や議論を深めていきたいと思います。また震災前の福島と比べて、震災後は何が、どう変わったのか、あるいは海外メディアの視点や取材の特徴などについても情報提供したいと思います。
 原発事故が大きな出来事であるがゆえに、取材テーマの捉え方や切り口も多様になっています。たった一度の取材をきっかけに、原発事故とその影響をライフワークとし、長期戦に入った記者も多くいます。こうした取材者間のインタラクティブな交流が世界を豊かにしている、という体験も、被災地取材の大きなモチベーションになっています。


17:35~18:55

講座④ 富山市議会を揺るがした記者たち-政務活動費問題はこうして暴いた
片桐秀夫(北日本新聞地方議会取材班キャップ)
砂沢智史(チューリップテレビ記者)

 富山の県議会や市議会、高岡市議会で政務活動費の着服が横行していたことが昨年、報道で暴かれました。白紙領収証やニセ領収証による不正請求が、記者の調査で次々に判明したのです。連日のように謝罪し、辞職する市議、県議たちの姿は全国で注目されました。富山市議会では欠員が規定を超えて補選が行われる事態となり、同様の検証は各地に広がり、幅広い議論が起きました。
 きっかけは市議会が月額60万円の議員報酬を、一気に月10万円も引き上げることを決めたことでした。この問題を議会の建物で取材していた地元北日本新聞の記者に対し、自民系会派の中川勇会長(当時)が怒鳴りつけ、取材メモを力ずくで奪い、記者が転倒する事件が起きたのです。地方議会とは何なのか。それを問おうと立ち上がった記者たちの力が、不正を明るみに出しました。
 地元メディアの北日本新聞とチューリップテレビで現場を担った2人の記者に経過を報告していただきます。取材の仕方、苦労や成果と報道の力について話し合いましょう。


19:30~ 交流懇親セッション

5月21日(日)

10:00~11:20 

講座⑤ 800人の証言で掘り起こした、東芝粉飾決算
小笠原啓(日経ビジネス副編集長)

 決算すら満足に発表できず、経営破綻の瀬戸際に立たされている東芝。最初のきっかけを作ったのは、勇気ある社員の内部告発だった。証券取引等監視委員会に書類を持って駆け込んだことで、2015年、過去7 年にわたり2000 億円の利益を水増ししていたことが判明。同年7 月には歴代社長が辞任する事態となった。
 だが東芝は、肝心なことを隠していた。米国で原発建設を手掛けていたウエスチングハウスの経営不振である。この事実をスクープしたのが、日経ビジネス編集部で結成された特別取材班だった。一つひとつの情報を丁寧に検証し裏を取りつつ報じることで、独自のポジションを築き、濃厚な内部告発が編集部に寄せられるようになった。
 人的資源に乏しい週刊誌がなぜ、東芝問題の報道をリードし続けられたのか。『東芝 粉飾の原点』の著者が取材の内情を語る。


11:35~12:55

講座⑥ データは整形が7割&突き合わせてなんぼ
西尾 能人(朝日新聞社デジタル本部ビジネス開発部ディレクター)

 記事執筆に使うパソコンに、頼んでもいないのに「Excel」がインストールされているのではありませんか。この表計算ソフト、いろいろ使えます。例えば、セルのサイズを調整-全選択して列の高さと幅を揃える-してやれば、図面を書くときの方眼紙がわりになります。でも……。
 1年前までそういう使い方しかしていなかった私が言うのも何ですが、ちょっともったいない。本来用途の「表計算」でも活用してみましょう。
 そのときに問題になるのが、入手したデータの整い具合。人間にとって見やすいものが、コンピューター処理にも最適かといえば、さにあらず。色分けしてくれたものとか、助数詞や単位をつけてくれたものなど、かえって困ることもあります。
 分析どころか、入り口でくじけそう。そこで、「正規表現」という小道具をご紹介します。ごく簡単に言うと、コンピューターの「中の人」に命令してデータ整形をやらせるための、極小プログラムみたいなものです。それがうまく行ったら、次は別々に入手したデータの突き合わせ。Excel の「VLOOKUP」か「PowerPivot」を試してみましょう。


13:50~15:10

講座⑦ こうして実現させた記者の留学、こんなに面白かった
日下部聡(毎日新聞記者、英オックスフォード大ロイタージャーナリズム研究所客員研究員)
洪由姫(元テレビ東京記者、米スタンフォード大John S. Knight ジャーナリズムプログラム研究員)

=英オックスフォード、米スタンフォードから中継スカイプ講演

 世界を知り、視野を広げ、最先端のスキルやデジタル技術を身につけたい-と願う記者に、留学という道があります。欧米の大学には現役ジャーナリストのためのプログラムがあり、奨学金制度も用意されています。
 このセッションでは、英国オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所に留学中の毎日新聞記者、日下部聡さん、米国スタンフォード大学John S. Knight ジャーナリズムプログラムに留学中の元テレビ東京記者、洪由姫さんがネット中継で話します。
 日下部さんは調査報道に携わる中、日本語圏だけで取材する限界を超えようと、30 代後半から英語を勉強し直しました。「情報公開制度を活用した調査報道の日英比較」を研究中です。洪さんは米国特派員時代、景気のどん底の米国をIT の革新が引っ張る姿に衝撃を受けました。IT によるメディア業界の激変、最前線のニュース発信や、新ビジネスモデルを探っています。会場の留学経験者も交えて議論していきます。


15:25~16:45

講座⑧ みんなの調査報道-SNSユーザーとの協働でできた制服価格調査
錦光山雅子(朝日新聞記者)

きない義務教育の負担具合に目がいくようになりました。そこで昨年3月下旬、ツイッターとフェイスブックで中学の制服価格が分かる資料を送ってほしいと保護者たちに呼びかけ、100を超えるサンプルが届きました。
 3カ月間、集まった100校分を超えるデータと格闘し、8月に初報が載りました。制服価格に「?」の思いを抱く人たちと取り組んだ「みんなの調査報道」が実ったと感じました。
 調査報道は政治家や行政、企業にまつわるものが多く、制服価格のようなテーマは「エラい人たち」の「ワルい話」でもありません。でも、庶民の財布の話にも、ときに不条理な「からくり」が潜んでいることがあります。「庶民とおかね」にまつわる調査報道を、SNSの力を借りて進めることができたと思います。

講師紹介

三木由希子

NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長、専修大学非常勤講師

大学在学中より「情報公開法を求める市民運動」にかかわり、1999年の情報公開クリアリングハウスへの組織改編とともに室長、2011年より理事長。情報公開制度を活用し、情報のアーカイブ化などを行うほか、制度を使う市民、NPO、報道関係者、研究者などを支援している。自治体情報公開制度の運用や権利救済に審議会委員などとしてもかかわる。共著に『高校生からわかる政治の仕組み 議員の仕事』(トランスビュー)、『社会の見える化をどう実現するか―福島原発事故を教訓に』(専修大学出版)など。

青島顕

毎日新聞社会部編集委員

毎日新聞社会部編集委員。1991年、毎日新聞社入社。西部本社整理部、東京本社社会部、水戸支局次長などをへて2016年10月から現職。「会計検査院が特定秘密保護法を『憲法上問題』と指摘」で日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞、「新聞労連ジャーナリズム大賞」を共同受賞。「秘密保護法に関する一連の報道」で「日隅一雄情報流通促進賞特別賞」。共著に『徹底検証 安倍政治』(岩波書店)。

中沢直紀

読売新聞大阪社会部記者

京都市出身。1998年入社。姫路支局を経て、大阪社会部で大阪府警捜査1課担当、キャップなど主に警察取材にかかわってきた。現在は遊軍記者として、企画連載などを担当する。

藍原寛子

ジャーナリスト、元福島民友新聞社記者

福島県福島市生まれ。Japan Perspective News 代表。フルブライター、国際フリーランス・ジャーナリスト・ユニオンメンバー。米国とフィリピンで臓器移植・臓器売買を取材。医療倫理、ジェンダー、人権などがテーマ。The Big Issue 日本版「レポート 被災地から」、日経ビジネスオンライン「フクシマの視点」、婦人之友「福島のいま」など。

片桐秀夫

北日本新聞地方議会取材班キャップ

1970年11月生まれ。93年に北日本新聞社に入り、東京支社、小矢部支局長、社会部、政治部などで記者として勤務する。2014年に社会部部長デスク、16年6月から地方議会取材班キャップ。担当したキャンペーン企画では、環境破壊の現状を探った「沈黙の森」(05年)で早稲田ジャーナリズム大賞、医師不足や人工呼吸器外しをテーマにした「いのちの回廊」(06年)でファイザー医学記事賞を受けた。

砂沢智史

チューリップテレビ記者

2003年チューリップテレビ入社、営業を8年、編成技術局の番組宣伝、放送運行部門を4年間担当した後、15年4月から報道記者として富山市政を取材。政務活動費不正問題に加え、同取材で記者が行った情報公開請求を議会事務局が議員に漏洩した問題を追及した。北陸新幹線の開業に伴う富山駅工事や富山市の再開発なども担当。世間話や「遊び玉」の質問は「苦手」といい、今回の取材も直球一本勝負で臨んだ。

小笠原啓

日経ビジネス副編集長

1998年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日経BP 社入社。日経コンピュータ編集部などを経て、2014年9 月から日経ビジネス記者。2015 年から東芝の不正会計問題を取材。一連の調査報道が評価され、日経ビジネス取材班として2016年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 企画賞」を受賞。◇主な著書『東芝、粉飾の原点』(日経BP社)2016年。

西尾能人

朝日新聞社デジタル本部ビジネス開発部ディレクター

朝日新聞社デジタル本部ビジネス開発部ディレクター。1969年生まれ。東京大学卒。92年入社、編集センター(旧「整理部」)、デジタル編集部次長などをへて、4月から現職。自分で取材して記事を書く側より、受け取る側に長く身を置いてきた。そのせいかどうか、原稿や写真では分からないこと、足りないことに想像をめぐらし、あれこれ仮説を立てては再取材・検証を頼む「安楽椅子探偵」的な癖がついた。

日下部聡

毎日新聞記者、英オックスフォード大ロイタージャーナリズム研究所客員研究員

毎日新聞記者。1970年生まれ。筑波大国際関係学類卒。93年毎日新聞入社、浦和(現さいたま)支局、サンデー毎日編集部などを経て東京本社社会部。「『憲法解釈変更の経緯 公文書に残さず』など内閣法制局をめぐる一連の報道」で第20 回新聞労連ジャーナリズム大賞、2016 年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞受賞。警察担当と遊軍が長い。昨年10 月から英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所に研究員として滞在中。

洪由姫

元テレビ東京記者、米スタンフォード大John S. Knight ジャーナリズムプログラム研究員

テレビ東京で報道番組ディレクター・記者として14 年間勤務。 警視庁クラブ、ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」を経て、09 年からニューヨーク支局特派員として景気のどん底からIT 産業をバネに立ち直るアメリカ経済を取材。その後、報道番組「未来世紀ジパング」ディレクターに。16 年に退社、同年夏から米スタンフォード大John S. Knight ジャーナリズムプログラムでデジタルメディアの新たな可能性を探るべく奮闘中。