画像がモノを言うとき:衛星画像を使った調査報道9例

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文:​アディチャ・チャトゥルヴェディ
翻訳:エァクレーレン

この記事はthe Global Investigative Journalism Network (GIJN)によって公開されました。日本語訳はGIJNのご支援のもと報道実務家フォーラムが公開したものです。貴重な情報を提供してくださり心より感謝申し上げます。

This story was originally published by the Global Investigative Journalism Network.
J-Forum publish the Japanese translation with GIJN’s support. 
We’re grateful to GIJN for offering and allowing to translate it into Japanese. 

中国、新疆のウイグル人強制収容所の衛星画像。写真提供:Geospatial World

 調査報道において、衛星画像は事実調査や特定の状況による影響測定、事実の細部についての正確な把握などに欠かせないツールとなっている。また紛争地帯における報道、人権侵害の正確な証拠特定や開発パターンの評価においても有効なツールになっている。

 調査報道は多くの場合、報道、現地の人々の談話、エピソードを織り込んだものである。

 常に「ジャーナリストにとって最も危険な地域」と位置付けられる紛争地帯や政治的に不安定な地域では、信頼できる代替手段として衛星画像を使う可能性が浮上する。

 北朝鮮における電力利用の程度を示す衛星画像だったり、ロヒンギャの家屋がミャンマー軍のブルドーザーで破壊されていく様子がわかる衛星画像だったりと、衛星画像の力を借りて実現した画期的なスクープは多い。

ブルドーザーによる破壊前・後のロヒンギャの村を示す画像

1995年には、衛星画像が旧ユーゴスラビアのスレブレニツァにおける住民虐殺の証拠となった。

スレブレニツァ(旧ユーゴスラビア)の画像。写真提供:NSA archives

 2007年にはボツワナで、イアン・カーマ大統領(当時)の私邸に仮設滑走路が建設されていることが衛星画像によって明らかにされた

ボツワナ中央部における仮設滑走路の建設

 ジンバブエでは、かつて解放闘争の英雄であり、独立以来の大統領として独裁的な絶対的指導者と化したロバート・ムガベが、37年間の君臨の後に2017年のクーデターで失脚するという歴史的瞬間があった。

 デジタルグローブ社が保有する衛星「WorldView-2」が撮影したこの画像は、ハラレにあるムガベの宮殿のような邸宅、通称「ブルー・ルーフ」を捉えている。ムガベは一時、この自宅に軟禁されていた。

「ブルー・ルーフ」、ハラレ(ジンバブエ)

 イランは長らく、核兵器を密かに入手しようと試みていた。米国のバラク・オバマ大統領によるイランとの核交渉は賛否両論を呼んだが、イランの核武装計画を抑制することが狙いだった。プラネット社による衛星画像は、核ミサイルを開発するイランの秘密施設を暴き、世界に衝撃を与えた。

イランの核施設を示したプラネット社の衛星画像

 中国・新疆ウイグル自治区のウイグル族ムスリム数千人が収容されている、遠回しに「再教育キャンプ」と呼ばれる強制収容所の存在も、衛星画像が捉えている。

新疆(中国)の衛星画像

 デジタルグローブ社の衛星画像は大量のロヒンギャ難民がバングラデシュに流入する様子をも明らかにしており、重大な人道的危機を浮き彫りにしている。

 長期化したシリア内戦では、テログループのISISの拠点、かつてシリアの産業・金融の中心地であったアレッポの惨状、シリアで3番目に大きな都市ホムスが破壊しつくされた様子、そして今も続く紛争による考古学的・歴史的な遺跡の荒廃などが、衛星画像によって確認された​。

アレッポ(シリア)の衛星画像。破壊前と破壊後

 中央アジアの戦略的要衝であり、30年以上にわたって断続的に紛争が続いているアフガニスタンでは、コペルニクス衛星の画像が国内難民の様子を監視し、大惨事と化した人災の規模を国連が知る手掛かりになった。

 新たに建国された南スーダンは今も紛争が絶えないが、ここでも衛星画像が難民キャンプの惨状を伝えている。デジタルグローブ社の衛星画像は、食糧不足を追跡し、その後の救援活動に寄与している。ダルフールの紛争では、衛星画像が集落の破壊や甚だしい人権侵害の様子を映し出した。

ダルフール地方(スーダン)。デジタルグローブ社による衛星画像

 2014年、デジタルグローブ社はロシアの部隊と重火器がウクライナ国境を越えていく様子を示した5枚の衛星画像を公開した。これらの画像はNATO諸国の注意を喚起し、ロシアの支援下での東ウクライナ侵攻という事実はないとするロシア政府の主張と矛盾するものだった。

 2017年には北朝鮮が大陸間弾道ミサイル及び核開発計画で大成功を収めたと発表し、全世界に衝撃が走った。

平城市(北朝鮮)の工場

 上記の画像はデジタルグローブ社が保有する衛星「WorldView-2」によって11月21日に撮影された。大陸間弾道ミサイル「火星15」 が開発されていると見られる平城の工場を捉えている。

 衛星画像は紛争や戦争が起きている地域以外でも、たとえば自然災害の調査や貧困パターンの解明に取り組むジャーナリストに活用されている。

 本稿では、情報を発掘し、憶測や意図的なごまかし、伝聞などの悪影響から厳然たる事実を切り離す手段としての衛星画像の意義を浮き彫りにする、顕著な例を少数ながら紹介した。

 調査報道が、膨大な量のデータと情報源を前にして、自力で良質のものを選り分けるだけでなく、情報の信頼性を確認しなくてはならないような時代は、すでに過去のものである。

 衛星画像はジャーナリズムの新しい領域を切り開いており、「知は力なり」という昔からのモットーの正しさを証明している。

この記事はGeospatial Worldに掲載されたものが初出であり、許可を得て転載した。




アディチャ・チャトゥルヴェディ(Aditya Chaturvedi)
はGeospatial Worldの編集補佐(Assistant Editor)であり、電子工学の学位を有している。主に現代史、同時代の社会政治的事件、文学、地政学、旅行記などに関心を寄せている。

原文はこちら:When a Picture Tells the Story: 9 Investigations That Used Satellite Imagery
この翻訳はGoogle News InitiativeとGoogle Asia Pacificの支援を受けて行われました。
This translation is supported by the Google News Initiative and Google Asia Pacific.
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